中国茶関連の書籍には工夫茶(中国語では功夫茶)という名称が良く用いられております。ただ、工夫茶の意味に関しては、割と曖昧で深く理解されていないのが実情かと思います。例えばキームン紅茶は工夫紅茶と言われますが、何がどう工夫紅茶か想像できますか?工夫紅茶の意味に関して私の経験を元に説明したいと思います。

工夫は創意工夫の意

工夫茶(功夫茶)の工夫ですが、日本語では昭和の時代にはカンフーとも呼ばれており、少林寺拳法の代名詞のように使われておりました。カンフーを中国語で書くと功夫(中国語読みではGong Fu )となります。功夫(工夫)は、労力、努力、創意工夫という意味であり、工夫茶とは非常に創意工夫と労力によって作られたお茶という意味になります。日本語における工夫に加え、労力や苦労などのニュアンスも含まれます。因みに英語ではクラフトビールなどに代表されるCraft、或いはArtisanがこれに相当する言葉になります。

工夫茶は潮州と武夷山でほぼ同時発生

中国におけるお茶の歴史を調べると、1600年代前半までは緑茶が中心であり、殺青→揉捻→乾燥(焙煎)という工程で作られておりました。ところが、1600年中盤になると、潮州や武夷山において、烏龍茶や紅茶などの発酵茶が開発されました。これらのお茶は従来の緑茶と異なり、萎凋発酵作業を伴い、更に、お茶の香りをより引き立てるために、100℃以下の温度で6〜24時間ベイキングを行う、炭焙という技術が用いられました。工夫茶の発祥ですが、福建省武夷山とも潮州の鳳凰山とも言われておりますが、様々な歴史書を見る限り、ほぼ同時発生的に生まれた可能性が濃厚です。中国の生産者は「売れるお茶」を作る事に対して非常に貪欲であることから、近隣地域で人気のお茶が開発された場合、その技術は周辺地域に瞬く間に伝播します。私の個人的な見解としては、潮州の鳳凰単叢烏龍茶がやや先に開発され、それが武夷山に伝播したと考えております。その根拠として、武夷山の最も樹齢が古い水仙種の木は400歳位なのに対し、鳳凰山には500歳を超えるお茶の木が沢山ある点です。潮州人は工夫茶というのは潮州のお茶の代名詞と考えています。

鳳凰単叢烏龍茶の選別風景

鳳凰単叢烏龍茶の炭焙の道具(焙籠)

工夫紅茶の先駆けは正山小種(ラプサンスーチョン)

近年では、ありとあらゆる中国紅茶に対して「工夫紅茶」の名称が用いられる傾向があります。実際、工夫紅茶と普通の紅茶に違いはあるのでしょうか?
工夫紅茶の先駆けは正山小種(ラプサンスーチョン)と考えられております。また、同時期に鳳凰単叢烏龍茶の故郷の鳳凰鎮でも類似の紅茶が作られていたようです。鳳凰鎮における工夫紅茶は現在も作られております。1600年代の正山小種は、丁度東方美人の作り方に準ずるような烏龍茶に近いやり方で萎凋を行い、発酵を軽めに行った上で、100℃以下の低い温度にて長時間のベイキングが行われていたと推察します。ベイキングにより、お茶の成分が化学変化を起こし、鳳凰単叢烏龍茶に代表されるようなフルーツや濃厚な花や蜜のような香りが形成されます。1600年代方式の正山小種は華やかで甘い香りがします。(HOJOの商品では正山小種 小赤甘がこれに相当)それに対して、1800年代に開発された正山小種は松の木を燃やした熱でベイキングを行うため、煙の香りがします。現在も両タイプの正山小種茶が存在しますが、1600年の方式のお茶は生産に手間がかかることから非常に高額です。

工夫紅茶とはどのような紅茶を指すのか

1600年代に開発された正山小種の場合、2つの「工夫」により作られます。1つ目は萎凋が行われている点、2つめは乾燥終了後のお茶を100℃以下の低温で長時間ベイキングして仕上げることです。
この作り方はキームン紅茶にも継承されております。それもそのはず、1800年代に正山小種を模倣して作られたのがキームン紅茶です。当時中国国内外での正山小種紅茶の需要の高まりから正山小種の値段が高騰しました。この為、当時お茶の値段が非常に安価であった安徽省の祁門県にて正山小種の作り方を模倣した紅茶が作られたのです。キームン紅茶については正山小種と比べるとやや工程が省略されている点はあるもののか萎凋+微発酵+ベイキングという工程を踏んでおり、正しく工夫紅茶と言えます。

特に工夫紅茶の明確な定義があるわけではありませんが、私はベイキング(炭焙)の有無が工夫紅茶の大きな特徴と考えております。ベイキングで、甘い香りを引き出すために、萎凋を長く行ったり、発酵を浅めに行う点も特徴の1つです。逆に英徳紅茶、雲南紅茶、台湾の紅玉紅茶、ダージリンやセイロンティに関しては、基本、萎凋→揉捻→発酵→殺青→乾燥でお茶が完成します。例えば雲南紅茶の製法では、萎凋は数時間と短く発酵を長時間行い、ベイキングは120℃で短時間行う場合と乾燥のみで全くベイキングしない方法があります。雲南紅茶も工夫茶と呼でいる書籍や生産者もおりますが、私は雲南紅茶はどちらかというとオーソドックスな紅茶と定義しております。

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