茶器を焼く温度の大切さ

[2011.01.10] Written By


土の茶器ですが、窯で焼くことを「焼きしめる」という言葉で表現する場合があります。
天然の土の場合、各粒子は結晶により構成されております。結晶は表面がごつごつ強いるため、結果的に空気を沢山含んでおります。しかし、ある温度を超え焼かれると、融点の低い結晶から溶け始め、液化することから体積が縮みます。
その結果、窯に入れた茶器は、焼く前の30%、土によってはそれ以上の収縮をします。
液化(ガラス化)すればするほど、ミネラルの結晶が減少することを意味しており、同時にその茶器の強度は増します。
瀬戸物に代表される磁器(白磁)の場合、より多くの結晶が溶けて液化しているため、土物の急須などと比べると非常に強度が強いのですが、反面、殆どのミネラルが溶けてしまっており、表面積が小さいためにお茶の味への影響が殆どありません。
焼きしめるほど、素材の密度が増すために土としての性能が増すと勘違いされている場合がありますが、実際はその逆です。
前述したとおり、「焼きしめ」の現象自体は、砂糖をフライパンにのせて加熱するのと同じ現象です。溶ければ溶けるほど表面積は減少し、土の水への影響は弱まります。
このことから、茶器に使われている土の性能を最大限に引き出すためには、出来る限り低い温度で焼くと良いと言う結論になります。
宜興や佐渡島のような鉄分を多く含む土を産出する場所には、朱泥と同質の岩石もゴロゴロとしております。
これらの岩石をそのままお茶に入れると、当然茶器を通したお茶よりも遙かに味は良くなります。焼成されていない岩石は、表面積が最大ゆえに当然と言えば当然の結果です。
この論理を元に、宜興の茶器は限りなく低い温度で焼かれます。低い温度で焼成することで、高いパフォーマンスがでます。
また、以前上記の理論を裏付ける為の実験をしたことがあります。朱泥を3つの異なる温度で焼きました。
A:30-50℃程低い温度、B:普通の温度、C:30-50℃程高い温度
結果、Aの最も低い温度で焼いた朱泥が水の味を最も円やかにしました。
逆に、Cの高い温度で焼いた物は水の味を殆ど変えませんでした。高い温度で焼きすぎると、ミネラルの結晶が解け落ちますが、ある一定レベルを超えると残存する結晶の数が激変し、その結果表面積が減少します。
この問題は、登り窯や薪窯で焼いた茶器にも見られます。薪窯の場合、表面が溶け落ちる寸前まで焼き、その風合いにたいし価値観を求めますが、この様に焼かれた茶器の場合、ミネラル分の多くが融点を超えており、土が元来持つ性能は全く発揮されません。
焼き物の場合、素材の強度は焼成温度に比例し、素材の性能は焼成温度に反比例します。陶芸家は、見た目の美しさに加え、強度と性能を天秤にかけ、最適な焼成温度を決める事が重要です。

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