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タンニンだけじゃない!お茶の渋味の本当の原因
- [2019.09.05] Written By 北城 彰(Akira Hojo)
お茶の渋味=タンニンというのがお茶業界では常識のように考えられておりますが、実はタンニンを原因とするお茶の渋味はごく一部です。
お茶の渋味には2種類有り、もう一つの渋味にはミネラル(金属)が関係しております。
タンニン作用を有するポリフェノール
夏に摘まれたお茶は無条件に渋味を呈します。空腹で飲むと、胃がむかむかして吐き気を催すことがあります。世の中多くの人は紅茶=渋いものと思っているのではないでしょうか?「紅茶は胃が弱いから苦手」という人がおりますが、これは紅茶が悪いわけではなく、低品質な紅茶の多くが夏から秋に摘まれた紅茶であるためです。夏の紅茶には、夏茶特有のポリフェノールが含まれております。このポリフェノールは体のタンパク質と結合する性質があり、それによって渋味、収斂作用が感じられます。このようにタンパク質と結合する「作用」を有するポリフェノールのことをタンニンと呼びます。
タンニンとは、ポリフェノールの一種であり、タンパク質やアルカロイドと結合して不溶化する性質(作用)を持つ物質群の総称です。
お茶の場合、番茶や秋摘み茶にはエピガロカテキンガレートに代表されるタンニン的な性質を示すポリフェノールが含まれております。このポリフェノールには「ガレート基」という特有の部分があり、これが口の中のタンパク質や胃壁と結合することで、不快な渋味や腹痛が感じられます。尚、春茶に含まれるポリフェノールはタンパク質との結合をしないことから、春茶のポリフェノールをタンニンとと呼ぶのは不適切です。春茶から作られた紅茶は全く渋味を呈さず、空腹時に沢山飲んでも全く胃に負担をかけません。
舌にこびりつくような渋味の原因は特定のミネラル
お茶の渋味にはもう一つ別の種類の渋味があります。それは舌の表面にこびりつくような渋味です。分かり易い例としては酸化した煎茶や玉露の渋味がそれに相当します。この渋味は胃の調子を崩したりはしません。ただ単に、舌に何かがこびりついたような、舌に膜を張ったような不快感が何時までも持続するのがこの渋味の特徴です。
この舌にこびりつくタイプの渋味ですが、酸化したお茶以外に、お茶の殺青温度が高い場合、また、肥料を沢山与えて栽培されたお茶も同様の渋味を呈します。
この渋味はタンニンとは全く関係のない渋味で、渋味の原因となっているのは茶葉に含まれている特定のミネラル(金属)です。
酸化した緑茶の渋味はマグネシウムが原因
ミネラルが渋味を呈するという話は今一イメージできないのではないでしょうか?
身近な例では、缶ビールをはじめとするアルミ缶に入った飲料は同様に渋味を呈します。もし機会があれば、是非同じ銘柄の瓶ビールと缶ビールを同時に飲み比べて味を比較してみてください。缶ビールを飲んだときは舌につくようなざらつきが感じられるはずです。(ペットボトル入りのコカコーラと缶入りのコカコーラでも良いです。)
私は仕事柄、様々な種類のなミネラルとお茶の味にどう影響するか調べ、把握しております。鉄、銅、アルミ、亜鉛、錫、銀、金、チタン、マグネシウムなどのミネラルを水やお茶に添加し、テイスティングすることで、それぞれのミネラルと味の関係が評価できます。マグネシウムを評価した際、酸化したお茶と同じに味であることに気がつきました。マグネシウムを添加した緑茶は、まさに酸化した緑茶の味そのものでした。この現象を発見したことにより、私は酸化したお茶の渋味の原因は「マグネシウム」と考えるようになりました。
マグネシウムは葉緑素の中心物質
緑茶にマグネシウムはどのような形で含まれているかご存じですか?
それは他でもない葉緑素です。葉緑素はクロロフィルAとクロロフィルBという物質ですが、これらの物質の分子中心部にはマグネシウムが結合しております。マグネシウムは葉緑素の分子の一部なのです。
中心にあるMgがマグネシウムです。
クロロフィルは非常に酸化しやすい物質であり、酸化するとフェオフェチンという物質に変化し、マグネシウムが抜け出します。
クロロフィルに入っている状態のマグネシウムは手が塞がっているため、味に対して何も影響しませんが、遊離の状態のマグネシウムは不快な渋味を呈します。
玉露の茶園
酸化した緑茶が渋いのは、クロロフィルが酸化することで生じた、遊離のマグネシウムが原因と考えられます。
同様に殺青で熱を加えすぎた緑茶もクロロフィルが酸化するため、マグネシウムが溶出して渋味を呈します。蒸し時間が長い、深蒸し茶が浅蒸し茶よりも渋味を呈するのも同様の理由と考えられます。
玉露や抹茶は、被覆をすることで、葉緑素を人為的に増やしているため、酸化すると他の種類のお茶よりも渋味が強く感じられます。
紅茶や烏龍茶におけるマグネシウムと味との関係
尚、紅茶や烏龍茶のような発酵茶の場合、当然クロロフィルは酸化しております。ただし、発酵によって生じた重合ポリフェノール等の物質がマグネシウムと結合(金属錯体)を形成するために、マグネシウムの手が塞がり、渋味を呈さなくなると推察しております。事実、酸化した紅茶や烏龍茶は酸化した緑茶ほどではないものの渋味を呈します。
肥料を与えたお茶が渋いのもマグネシウムが関係
肥料を与えた緑茶が渋いのも葉緑素のマグネシウムが関係していると考えられます。肥料を与えると、植物は勢いよく生長しようとします。植物が生長するためには、より活発に光合成を行う必要があり、お茶はより多くの葉緑素を生合成します。
肥料を与えると、野菜や観葉植物が青々とするのと同じで、肥料を与えたお茶も非常に濃い緑色へと変化します。尚、肥料により大量の葉緑素が合成されると、お茶は急性のマグネシウム不足になります。一般のお茶農家では肥料に加え「苦土」を与えますが、この苦土こそマグネシウムの別名です。
自然栽培茶園:茶葉が非常に黄色い点が特徴
逆に自然栽培茶や放置茶園の場合、肥料を全く与えないため、お茶の成長は遅くなり、その結果、葉緑素は非常に少なくなります。自然栽培茶が黄緑色をしているのはこの為です。自然栽培茶の渋味が少ないのは葉緑素の量、つまり、マグネシウム総量が少ないためと推察されます。
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