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酸化酵素だけでは語れない発酵茶の香り-鍵を握る萎凋の科学
- [2025.11.12] Written By 北城 彰(Akira Hojo)

烏龍茶、紅茶、白茶などの発酵茶について、多くの書籍やネット情報では、お茶の発酵に関わる酵素としてポリフェノール酸化酵素(ポリフェノールオキシダーゼ:PPO)のみが取り上げられています。
しかし実際には、お茶の発酵には多数の酵素が関与しており、例えば蒸れ臭の発生、青っぽい香りの発生、花のような香りの発生など、それぞれ異なる酵素反応によって媒介されています。
本コラムでは、発酵茶の香りを形成する上で極めて重要な酵素反応について解説します。
香りとは直接関係が無いお茶の酸化酵素
紅茶の製造では、茶葉を揉んでから発酵させることで、ポリフェノールオキシダーゼ(PPO)がカテキンなどのポリフェノールを酸化し、それらが結合することでテアフラビンを生成します。テアフラビンは黄色の色素ですが、これが高い濃度で含まれるため、紅茶全体は明るいオレンジ色に見えます。ただし、カップの縁など薄い部分を観察すると黄色く見え、この現象がいわゆるゴールデンリングです。また、発酵がうまく進んだ紅茶では、茶殻が新しい銅のような明るいオレンジ色を呈します。
一方、発酵の制御に失敗すると酵素反応が過剰に進み、ポリフェノールが重合を繰り返しテアルビジンと呼ばれる高分子タンニンが形成されます。テアルビジンは茶色の色素であるため、この場合はゴールデンリングが現れず、茶殻はチョコレートのような暗い色になります。
ここで重要なのは、テアフラビンが揮発性をほとんど持たないため香りには寄与せず、主に味わいや口当たりに関係する点です。したがって、ポリフェノールオキシダーゼによる酸化反応は香り形成とは直接関係せず、香りの生成には別の酵素反応が関与します。

香り形成に非常に重要な萎凋工程
発酵茶には萎凋という工程があります。萎凋とは、萎凋層で茶葉に送風を続けたり、日陰で薄く広げた茶葉を静置したりして、水分をゆるやかに除去する作業です。簡単に言えば、「穏やかに萎れさせる工程」です。
萎凋が進むと、茶葉は水分を失って脱水ストレスを受けます。その結果、細胞膜の透過性が高まり、構造がゆるんでいきます。これにより、それまで隔離されていた酵素と、その基質である香りの前駆体が初めて接触できるようになります。
茶葉の中で香り成分の多くは配糖体という形で存在しています。配糖体とは、香り成分(非糖成分)に糖が結合した化合物で、糖が結合しているため揮発性を持たず、安定した状態で茶葉中に貯蔵されています。茶葉中には、糖が一つ結合したモノグリコシド型配糖体と、糖が二つ連なって結合したプリメベロシド型配糖体が存在します。代表的な香気成分であるリナロール、ゲラニオール、ネロール、シトロネロールなどのテルペンは、いずれもこの配糖体として貯蔵されています。糖と結合した状態では非揮発性であり、香りとして感じられません。
萎凋によって茶葉の細胞膜が変化すると、これらのテルペノイド配糖体にグリコシダーゼ(配糖体加水分解酵素)が作用し始めます。糖が一つ付いたタイプの配糖体にはβグリコシダーゼが、糖が二つ付いたタイプ(プリメベロシド)にはβプリメベロシダーゼが働きます。どちらも糖の部分を切り離して、香気物質であるリナロール、ゲラニオール、ネロール、シトロネロールなどのテルペンを遊離させる働きを持っています。
このように萎凋の段階は香り物質を形成する上で非常に重要であり、この作業を丁寧に行わなければ、花やフルーツの香りを引き出すことは難しくなります。


緑色をしたダージリンファーストフラッシュも発酵茶
人によっては、鮮やかな緑色をしたダージリンファーストフラッシュや台湾の高山烏龍茶などを見て、緑茶の一種と考える人も少なくありません。
確かに、ポリフェノール酸化酵素による酸化がほとんど進んでいないため、茶葉の色は緑のままで、一見すると緑茶のように見えます。
しかし、これらの茶では萎凋の過程でグリコシダーゼ(配糖体加水分解酵素)などの酵素が活性化し、香りの前駆体が分解され、リナロールやゲラニオール、ネロール、シトロネロールなどの香気成分が生成されています。
つまり、見た目は緑茶でも、酵素反応による香気発酵がしっかりと行われており、実際には発酵茶なのです。
白茶においても、明確に発酵工程はないものの、萎凋の段階で酵素発酵が促進されており、れっきとした発酵茶です。
このように、発酵はポリフェノール酸化酵素だけに限らず、お茶の製造では多様な酵素反応が関与しています。
したがって、「発酵度」でお茶を分類するという行為自体、PPO(ポリフェノールオキシダーゼ)にしか着目していない証拠であり、現実的ではなく、適切な考え方ではないと私は考えております。

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