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見た目重視のあまりお茶がまずくなる湯飲み
- [2013.03.19] Written By 北城 彰(Akira Hojo)
写真の湯飲みは天目茶碗です。天目とは、中国禅宗の中心であった浙江の天目山に留学した禅僧が日本に持ち帰った事から、その様に呼ばれるよになったそうで,日本だけでなく中国、台湾、韓国で作られております。
鉄を含む釉薬を用いて、全体に黒色に発色されますが、黒の上に様々な模様を発色するために、最近では鉄以外のミネラルが頻繁に用いられます。
詳しくは、以下のページを参照ください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/天目茶碗
どんなお茶もまずくなる不思議な茶碗
写真の天目茶碗は、お茶を飲むのにちょうど良い小型のサイズです。美術品としては非常に美しく、贈り物としても貰って嬉しい品です。しかし、残念ながら、この茶碗は道具としては失格です。
この茶碗でお茶を飲むと、どんな高品質のお茶も、味がフラットになり、渋味が生じます。発色をより美しくするための、様々なミネラルを含む釉薬が使用されますが、これらミネラルはお茶の味に対して顕著な影響をします。(全ての天目茶碗がお茶をまずくするわけではありません。良い悪いは使用される釉薬次第です。)
用と美の本来の意味
優れた道具も、機能ではなく、見た目を追い求めると、その結果、道具としての基本性能を失うという良い例だと思います。
「用と美」、「機能美」という言葉がありますが、これは、「機能と美しさの両立」と言う意味では無いと私は思います。「機能をとことんまで追求して作られた優れた道具は、内面から滲み出るような美しさを併せ持つ」これが、「機能美」や「用と美」という言葉の本来の意味ではないでしょうか?
銅と亜鉛は味をフラットにし、渋味を呈する
写真の天目茶碗は緑色の発色をするために、亜鉛を含む釉薬が使用され、その結果、この茶碗でお茶を飲むと、どのようなお茶も渋くなり、味がフラットに変化してしまいます。お茶の味を悪くする、亜鉛や銅ですが、焼成すると、緑や青に発色するために、ごく一般的に茶器、酒器や食器の制作に用いられます。緑や青の色の焼き物には注意が必要です。
追記 2013年 3月21日
陶芸を生業とされている方から以下の様なご指摘を頂きましたので紹介したいと思います。専門的な知見を紹介してくださり有り難うございました。
天目釉は高火度釉に分類される釉薬です。釉薬というのは珪酸を主体としたガラスの一種であり、例外もありますが、こういった天目のように完全にガラス化しているものについては原料となる土石類の成分、着色剤として使われる酸化金属はほぼ完全にガラス固化体となっていて、酸やアルカリに対して溶出(反応)することはまずあり得ません。
例えば、実際私たちがデパートなどで食器を売る際に鉛など有害金属の溶出検査を受けさせられる場合がありますが、検査機関に試験していただいても溶出はゼロです。
溶出については、実際に問題になるのは鉛を媒溶剤として使った低火度釉のエリアですので、こういった高火度釉については形式的なものにすぎません。すなわち、天目釉という高火度釉においては、強い酸、アルカリとの反応は問題にならず、ましてやお茶というのみものにおいては考える必要もないレベルです。
ガラス=イオンの溶出はないと言う点を前提とされておりますが、実際は微量のイオンが水に溶け出すことが研究により明らかになっております。以下の資料や論文を見ると実験用の純度の高いガラス製品でも微量ですが溶出しております。食品衛生法の観点からは、誤差の範囲内で非検出となりますが、微量のイオンの存在がお茶やその他の飲み物に影響を与えているものと思われます。
「実験器具に用いられる素材の特徴」公益社団法人 日本分析化学会
http://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2011/201101minifile.pdf
「ガラスの溶出試験」日本板硝子テクノリサーチ株式会社
http://www.nsg-ntr.com/tech/b13.html
「ガラスより水中へ溶出するアルカリ・イオンの溶出量と溶出時間および溶出温度との関係式(第2報)」矢田部 俊一
http://ci.nii.ac.jp/naid/110000216271
「No.001 ガラスがワインに溶ける?」それってほんまかいな 株式会社 リアル
http://www.j-real.com/honmakaina/R1.html
また、筆者の方は亜鉛、銅についても言及されていますが、まず、亜鉛は媒溶剤として釉薬に加えるものでそれ自体の発色はありません。また銅は発色剤として加えるものですが天目に加えることはまずあり得ません。天目釉に使われる着色剤は、(現代作品については絶対とは言えませんが)伝統的に鉄のみです。
この写真の天目は鉄釉の分類でいえば蕎麦釉に近いと思われ、この場合、基礎釉の媒溶剤にマグネシウムが含まれることにより、黄色~緑系の乳濁または結晶が出来ます。この場合マグネシウム(Mg)が一種の鉱化剤(発色の変化にに影響を与える成分のこと)として働くわけです。
亜鉛は亜鉛自体は釉薬としては発色剤としてはもちいられず、溶媒剤として使用されるんですね。マグネシウム単品ではテストしたことがありませんので今後の課題です。私も更に深く釉薬に関して勉強したいとおもいます。
本記事の論点は、釉薬にもちいられる金属がイオンとなって味に影響をすると言う点で、それは時としてプラスに働くこともあり、また、マイナスに作用することもあります。お客さんの立場からすると素材と味の関係を意識することが大切と思います。
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