お茶を美味く飲むためにおすすめする急須の選び方3ポイント

[2019.02.07] Written By

お茶を美味しく飲むという観点から、急須を選びで着目すべき3つのポイントを説明したいと思います。これらは陶器に限らず、あらゆる材質の急須を選ぶ際に考慮すべきポイントです。

急須を使う2つの目的

急須には、茶葉とお湯を分離するという主目的以外に、もう一つ大事な目的があります。
私にとって急須を使用する最大の目的はお茶の味を変化させることです。実は急須ごとにお茶の味は変化するのをご存じでしょうか?しかし、全ての急須が味に対してプラスの影響を与えるわけではありません。味を良くする急須もあれば、むしろ味を悪くする材質もあります。これは陶器の急須に限ったことではなく、ガラスや磁器を含む全ての材料が味に良くも悪くも影響します。この為、安易にデザインや色合い、使い勝手だけで急須を選ぶと、どのお茶をいれても美味しくはいらないという事になりかねません。このような話をすると、「味が変わると言っても些細な変化だろう」と思われる人が多いかもしれませんが、急須による味の変化は些細どころか、極めて顕著です。普段の生活の中では味を比較することがないため、気がつかなかったり、気にもしませんが、異なる種類の急須で同じお茶をいれ、飲み比べると、その違いの凄さに多くの人が驚かれます。

私が急須の素材を選ぶ際には以下の3点のポイントを考慮するようにしております。

1.お茶との相性以前に味を駄目にする急須かどうか
2.特定のお茶との相性が悪い急須かどうか
3.急須によって変化する2つの異なる味の方向性

お茶との相性以前に味を駄目にする急須かどうか

一般的に、「陶器の急須でお茶をいれるとお茶が美味しくなる」と思われておりませんか?
残念ながら一概にそうとは言えません。陶器はその成分によってお茶が美味しくなることも、逆に不味くなることもあります。私はこれまで数百種類以上の急須を評価し、味の変化を調べてきましたが、驚くべき事に過半数の急須はむしろお茶を不味くしていました。
「美味しい」や「不味い」とは具体的にどういう事かというと。美味しいとは、お茶の後味を濃くしたり、味香りの余韻が長くなり、コクが出て味の厚みが増します。逆に不味くする例としては、急須を通すことで、えぐみ、雑味、渋味を呈したり、お茶の後味をカットし、奥行きのないフラットな味わいに変化します。「陶器でお茶をいれると、土が香りをすってしまう」という表現をされる人がおりますが、これは土が吸っているわけではなく、土に含まれるミネラルが水の味に影響し、香りの感じ方を変えてしまっているためです。
日本に限らず中国台湾においても、急須を製作する際に、味を意識して土が選択されることは希で、多くは色合いや風合いなどの意匠的な面が優先されます。土はミネラルの集合体ゆえ、含まれるミネラルによってお茶の味は影響を受けます。硬水と軟水でお茶をいれ比べるとお茶の味が異なりますが、カルシウムが味と関係しております。これはミネラルが味に影響を与える一例ですが、例えばカルシウムを多量に含む急須でお茶をいれると、硬水と同じような味へと変化します。
天然土なら味が良くなるかというと、そうでもありません。私は急須用の土を選ぶ際は、同じ産地から沢山の種類の土を集めて性能を評価します。例えば伊賀で天然朱泥を探していた際も、数十種類の天然土を検討しました。実際に評価してみると、味を良くする土はその中の10%以下でした。つまり、何の混ぜものもない天然土でも、味を良くする土と出会う確率は非常に低いと言えます。
急須でお茶の味が変わるという説明をしてきましたが、実際には変化しているのは「水の味」になります。つまり、不適切なミネラルを含む急須は水の味自体に悪影響を与えます。水自体が不味くなっている場合、お茶の種類に関係無く、どのお茶をいれても例外なく美味しくはいりません。尚、私の経験では、以下のミネラルを多く含む急須は味にマイナスの影響を与えます。

-マグネシウム
-銅
-亜鉛
-アルミ
-銀

逆に、以下の素材は味に良い影響を与えます。

-鉄
-錫
-プラチナ
-金

残念ながら、各急須には成分表が付いているわけではない為、急須の味への影響の善し悪しを外見からは判断できません。
私は材料の素性が分からない急須を買う場合は、必ず水を通し、水の味を確認します。これは非常にマニアックな方法と思われるかも知れませんが、実は東南アジアでは一般的です。マレーシアのクアラルンプールにあるHOJOの店舗では7〜8割くらいのお客さんは、急須を買う前に味を確認し、急須の性能に満足した上で急須を購入されます。

特定のお茶との相性が悪い急須

急須の素材によっては、特定のお茶とのみ相性が悪い土も存在します。
例えば、萬古焼の土は、私の経験上、鳳凰単叢、武夷岩茶、安渓のお茶との相性良くありません。これらのお茶をいれると、味に奥行きが無くなり、同時に渋味を呈します。土に含まれるミネラルとお茶のミネラルとの相性が良くない為と推察しております。
ただ、萬古焼を台湾の烏龍茶、日本茶用に使っても上記の様な問題は生じません。
逆に、お茶との相性は関係無く、どのお茶をいれても同じように味が変化する土もあります。HOJOのラインアップですと、古琵琶湖、秋津無名異、野坂、無名異上赤、伊賀天然朱泥がそれに相当します。

萬古焼急須

急須によって変化する2つの異なる味の方向性

急須によるお茶の味の変化についてですが、単純に優劣のものさしだけで評価をすることは出来ません。
少し専門的な話になりますが、お茶の味は「奥行き」と「広がり」の2つの要素によって構成されます。
奥行きとは、厚み、深さ、喉越し、余韻などの言葉に置き換えることが出来、喉への広がりを表す感覚です。広がりとは、ボディ、ふくよかさ、豊かさ等の言葉に置き換えることが出来、口の中で味や香りが横に拡散する感覚です。
当然、奥行きも広がりも全てあるのが良いと思われがちですが、その辺は、好みが関係するため、一概にそうとも言えません。例えば、コカコーラは奥行きはありますが、広がりが殆どありません。ペプシコーラは広がりのみで奥行きが殆ど有りません。もし、コカコーラの味に広がりを付与した場合やや暑苦しい味になるように思います。一般的に、台湾の烏龍茶やダージリンを初めとする紅茶については、広がりが大事で、お茶を飲んだときに香りが華やかに感じられます。紅茶の場合、味に広がりがない場合、香りが穏やかになりやや物足らなく感じられる場合があります。但し、お茶を頻繁に飲む人(特に女性)は意外に広がり(ボディ)をあまり求めない傾向があります。私自身、お茶を飲むときに広がりは余り必要としてません。むしろ、ボディは軽めで、奥行きが非常に深い味が好きです。このように、好みの違いによって求める味の質が異なるため、急須によって味がどう変化するかと言う点を意識することが大事です。

繰り返しになりますが、急須は外観から性能を評価することは出来ません。また、土の産地名もあまり味との関連性が無く当てになりません
したがって、大事なのは、店頭で味を試せる店から購入するか、販売者がそれぞれの急須の素材による味の違いを良く理解している店から買うことが大事です、

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