製茶工場での加工直後のお茶は粗茶(日本)とよばれます。中国では粗茶と言う呼び方はせずに毛茶と呼ばれます。通常、「乾燥後のお茶」がこれに相当します。
お茶の場合、農家から直接購入する場合を除き、粗茶(毛茶)の状態で流通する事は少なく、通常は仕上げという工程を経て商品になります。これは日本茶に限った事ではなく、台湾や中国のお茶も一緒です。
仕上げで特に重要なのが、火入れと呼ばれる作業です。火入れと言っても、実際に火を加えるわけではなく、熱風や輻射熱などでお茶を加熱処理する作業の事です。また、「火入れ」は中国や台湾では「炭焙」と呼ばれます。生産業者によっては、電気ヒーター式の熱風乾燥機を使う場合もありますが、言葉としては「炭焙」と呼ばれる事が一般的です。

火入れと言っても3つの異なる目的がある

火入れというと、お茶に熱を加えて武夷岩茶や焙じ茶のような香ばしさを出す工程と思われがちですが、火入れには3つの全く異なる目的があります。

  1. 青臭さと舌のざらつき感を除去し、クリアーな飲み心地にする
  2. 熟成香を形成する
  3. 香ばしさを付与する

1. 青臭さと雑味を除く

工場で作りたてのお茶である、粗茶(毛茶)は新鮮と言えば新鮮なのですが、この状態のお茶は必ず青臭い香りがしております。
この青臭い香りは、中国や台湾のお茶業界では「青味」と呼ばれます。因みに、「青味」と「清香」とは全く異なる意味なので混同しないようにしてください。
中国茶でも日本茶を問わず、共通して言えることですが、粗茶(毛茶)の場合、舌触りに関しても雑味が感じられます。
このような理由から、青臭さを除去し、同時に甘い香りを引き出し、また、雑味を除去してクリアーな舌触りにするためには、低めの温度での火入れ作業が必要となります。
台湾の高山茶(清香タイプ)は花のような香りがします。一見すると、火など全く入ってないような気がするでしょうが、実は上述したような低温での火入れがしっかりと行われています。HOJOで販売している凍頂烏龍茶、阿里山茶、翠峰茶、梨山茶など、火は全く入ってないように思われるでしょうが実はちゃんと火入れが行われております。火入れ前の高山茶は、刈たての草のような青臭さと舌にこびりつくような雑味を呈します。このような感覚は製茶後数日が経過するとより増幅して感じられます。

2. 火入れで熟成を促進しフルーツのような甘い香りを引き出す

2つめはお茶の熟成を目的とする火入れです。お茶は熟成により甘いフルーツのような香りを形成します。
代表的なお茶は鳳凰単叢烏龍茶です。甘いフルーツの香りで知られる鳳凰単叢烏龍茶も、粗茶は青臭さを伴い、セロリのような香りがしております。また、雑味が強く、飲むと舌に違和感が感じられます。しかし、炭火による低めの温度で長時間あぶることで、粗茶からは想像できないような甘いフルーツの香りが形成されます。ただし、面白い事に、鳳凰単叢烏龍茶の粗茶を脱酸素状態にて、数年間、年間平均気温の高い場所に保管すると、不思議にも火入れ熟成をしたお茶と同じような甘い香りが形成されます。実は火入れによる熟成もこの原理の応用であると考えることが出来ます。熟成をするためには「保存温度 x 期間」が重要な要素となります。以下のように保存する温度条件が変わると、目的とするフルーティな香りはより早く形成されます。つまり、保存温度が上がれば上がるほど、熟成時間が短くなると仮定することが出来ます。焦げない程度の温度で一定時間火入れを行うと言うことは、まさに、保存熟成と同じ原理になります。
温度が高いほど熟成が早く進む、熟成の進み方=温度 x 期間と定義した場合、以下の種々の異なる条件で熟成しても、同じような熟成結果が得られると仮定することが出来ます。マレーシアの倉庫における年間平均温度25℃位にて、3年でフルーツのような熟成香が形成されるとすると、異なる条件でも同じような熟成をすることが出来るという仮説を以下に紹介します。

25℃で3年

30℃で2年

35℃で1年

40℃で半年

45℃で3ヶ月

50℃で1ヶ月

60℃で10日

70℃で3日

80℃で1日

火入れをするさい、100℃を超えるとお茶は焦げ始めます。従って、焦げない範囲の温度にて20時間以上火入れをすることは、25℃で3年熟成するのと同じ熟成効果得られると推察することが出来ます。鳳凰単叢烏龍茶の火入れはまさにこの論理で行われております。例えば、清香タイプの蜜蘭香をマレーシアのような暑い国で2年も保管すると、濃香タイプとそっくりの香りへと変化します。

鳳凰単叢烏龍茶の毛茶(火入れ前)

3. 火入れにより香ばしい香りを形成する

火入れの3つめの目的は「香ばしい香り」を形成することです。これはつまり、100℃以上の温度を加えることで、部分的に茶葉を焦がします。日本における焙じ茶、武夷岩茶、台湾の炭焙烏龍などにはこの技術が使われております。
ただ、武夷岩茶、台湾の炭焙烏龍の場合、甘みを同時に引き出すために、2の火入れ熟成に準ずる技術も組み合わされておりそう単純ではありません。
日本の煎茶の場合、火入れと呼ばれる作業は香ばしい香りを引き出す目的が大きく、特に肥料栽培でアミノ酸を多く含むお茶の場合、高い熱を加えることで、メイラード反応により独特の香ばしい香りが生じます。
私は、日本茶でも、自然栽培茶のようにカテキンを多く含むお茶となると、むしろ、1の目的の火入れを行うのが理想だと考えております。つまり、草のような青臭さを除き、舌触りをソフトにし、甘い香りを引き出します。近年、私は小型ではありますが、業務用の火入れ機を台湾から購入しており、日本茶については1.の目的の火入れ作業をすることで、自分の理想とする香り・味に仕上げるようにしております。

日本茶(緑茶)、中国紅茶、白茶、プーアル熟茶、プーアル生茶、ジャスミン茶、烏龍茶という厳選された茶葉7種のお試しセット

この記事に関連するHOJO Teaの商品


関連記事 RELATED ARTICLES

お茶に関する最新情報を確実にキャッチするには? SOCIAL NETWORK

1,Twitterをフォローする。2,FaceBookで「いいね!」を押す。3,メールマガジンに登録する。という3つの方法で、お茶に関する最新情報をキャッチすることができます。今すぐ下のツイッターフォローボタンや「いいね!」をクリック!

メールマガジン登録で無料サンプルをもらおう!
メールマガジンにご登録いただくと無料のサンプル茶葉のプレゼントや希少商品の先行購入など様々な特典がございます。ソーシャルメディアの購読だけでなく、メールマガジンへのご登録もお忘れなく!

HOJO TEAオンラインショップNEWS一覧を見る

2022年産の鳳凰単叢老欉柿花香単株と桂花香単株を発売
2022年産の鳳凰単叢老欉単株茶を2種類発売しました。 何れも極めて樹齢の高い木ゆえに、非常に奥行きのある、長い余韻のお茶です。濃い後味に加え、1年以上の熟成による、濃厚な香りをお楽しみ戴けます。 鳳凰単叢老欉柿花香 単 …
ダージリンファーストフラッシュとオータムナル紅茶を発売
ダージリンを2種類発売しました。今回の新商品は、Arya茶園の春摘みファーストフラッシュのルビーと秋摘みオータムナルのルビーです。春摘みのルビーは4月に仕入れ、その後無酸素状態で熟成させることで、香りをさらに高めました。 …

最新の記事 NEW ARTICLES

野生茶を求め雲南省臨滄市南西部の山村へ
現在、雲南省臨滄市の南西部にてお茶の仕入を行っております。 当店にとって重要な商品の1つに野生茶があります。野生茶は製茶はもちろんですが、原料確保が一番大きな課題です。 今回、新たに野生茶が有る場所があるらしいと言う情報 …
雲南省のお茶産地にてプーアル茶、白茶、紅茶の生産
3月24日から中国の雲南省臨滄市の南西部、永德、鎮康県にてお茶の仕入れ、生産を行っております。 雲南省は世界一と言っても過言で無い極上の原料がある反面、生産に対する管理が甘いため、出来合のお茶を仕入れたのでは、理想とする …
2022年産の鳳凰単叢老欉柿花香単株と桂花香単株を発売
2022年産の鳳凰単叢老欉単株茶を2種類発売しました。 何れも極めて樹齢の高い木ゆえに、非常に奥行きのある、長い余韻のお茶です。濃い後味に加え、1年以上の熟成による、濃厚な香りをお楽しみ戴けます。 鳳凰単叢老欉柿花香 単 …
ダージリンファーストフラッシュとオータムナル紅茶を発売
ダージリンを2種類発売しました。今回の新商品は、Arya茶園の春摘みファーストフラッシュのルビーと秋摘みオータムナルのルビーです。春摘みのルビーは4月に仕入れ、その後無酸素状態で熟成させることで、香りをさらに高めました。 …
標高2100mのシングルガーデン産プーアル生茶、 火地古樹生茶2021を発売
火地古樹生茶2021を発売しました。 このお茶は、小さな単一茶園(シングルガーデン)のお茶のみから加工されたプーアル生茶です。 https://hojotea.com/item/d147.htm シングルガーデン産のお茶 …
ペットボトル入りのお茶の味に大きく影響するビタミンCの存在
近年、多くの人々にとって、お茶を飲むということはペットボトル入りのお茶を飲むことが普通な今日この頃ですが、本コラムでは、ペットボトル入りお茶の特徴的な味に焦点を当ててみたいと思います。 酸化防止目的のビタミンCの添加 コ …
鳳凰単叢蜜蘭香2023と老欉姜花香2022を発売
鳳凰単叢烏龍茶を2種類発売しました。今回販売したのは、蜜蘭香濃香2023 No.1と老欉姜花香2022です。 https://hojotea.com/item/houou.htm 質の良い鳳凰単叢の特徴 良質な鳳凰単叢は …
ちょっと変わった白茶の楽しみ方!驚きの応用アイデアをご紹介
水出しで抽出した白茶と、お湯で淹れた白茶はまったく異なる香りになることをご存じでしょうか?本コラムでは、水出しを更に応用した白茶の楽しみ方を紹介したいと思います。 殺青工程の無い白茶には酵素が残存 白茶の特徴は、製茶工程 …
大雪山野生茶ベースの特注ジャスミン茶:野生普洱茉莉龍珠
半ば好奇心から、大雪山野生生茶をベースとしたジャスミン茶を作ってみました。 日本はもちろん、中国でも極めて珍しいお茶ができました。 https://hojotea.com/item/s08.htm ジャスミン茶を特注生産 …
ミルクの香りがする烏龍茶とは?
お客様から偶に「ミルクの香りがする烏龍茶」を紹介してほしいとお電話頂く事があります。また、台湾を訪れた際に飲んだミルク烏龍茶が忘れられないというエピソードも耳にします。このコラムでは、そんなミルクの香りがする烏龍茶に焦点 …

PAGETOP