一部の白茶を除き、基本どのお茶も生産工程中に「殺青」という工程があります。殺青とは熱で酵素(酸化酵素)を失活する工程の名称で、烏龍茶や紅茶の場合酵素を加熱により失活することで発酵を止める目的、緑茶の場合、工程の最初に殺青をすることでお茶を発酵させない目的に用いられます。殺青の方法についてですが、日本茶は蒸しますが、中国緑茶、烏龍茶、プーアル生茶は釜炒りと言う方法が用いられます。

釜炒りの仕組み

釜炒りとは、文字通り茶葉を釜で「炒り」、鉄板の熱で酵素を殺青(酵素を失活させる)する工程と思われがちです。しかし、実際の釜炒りの原理はそう単純ではありません。
実は、釜炒りの仕組みは、お茶を加熱することで生じる蒸気によって茶葉の酵素を失活させます。加熱中に蒸気が逃げてしまうと蒸発潜熱で温度が下がり、茶葉が乾燥してしまいます。この為、蒸気が逃げないように多量の茶葉を用いることで、茶葉自体を蓋として機能させます。仮に少ない量の茶葉をいれたり、頻繁に攪拌をし過ぎたり、茶葉を広げすぎて表面積を大きくし過ぎた場合、蒸気が多量に揮発し、理想的な条件での殺青は出来ません。

表向きは釜の熱で殺青しているように見える釜炒り茶ですが、実際には「水蒸気」で殺青が行われます。水分を出来るだけ失わないように保持し、茶葉から発生した蒸気で蒸すことがポイントです。つまり、釜炒りにおける茶葉の殺青技術は蒸青緑茶(蒸気で蒸す緑茶、例:日本茶)と基本は一緒です。

蒸青と釜炒りの違いは、蒸青は外部から水蒸気を加えるのに対し、釜炒りはお茶自体の水蒸気を用いて殺青を行います。

山奥で少数民族によって作られたプーアル茶が焦げ臭がする理由

プーアル茶の産地でも山奥や僻地の村へ行くと専門のお茶加工業者ではなく、農家が自らお茶を加工しております。彼らの多くは、大型の釜が無いため、小さな中華鍋を用いてお茶を作ります。
しかし、中華鍋はサイズが小さいために、少量の茶葉しか処理できません。茶葉が少なすぎると、十分に蒸気を保持することが出来ません。その結果、加熱しても水蒸気が逃げてしまうことから、蒸発潜熱によりお茶の温度が上がりません。水蒸気を失ったお茶は、やがて乾燥します。その結果、今度は急激に茶葉の温度が上がり、表面に焦げが生じます。少数民族の村などで作られたお茶が焦げ臭いのはこれが主原因です。

山村で一般的な小型の釜

下の写真のような小さな釜では処理できる茶葉の量が少なくなるため、十分な蒸気を保持することが出来ません。更にこの設備の場合、焚き火が直下にあり釜全体が熱くなるのも問題です。適切に設計された殺青窯は釜の前面が熱く、手前の温度は低くなるように設計されてます。前面で加熱し、蒸気を含ませたお茶を手前に引き寄せ、暫く置くことで、茶葉内に充満した蒸気で殺青処理を行います。

山村でよく見かける小さな殺青の釜

理想的な釜:火は奥の部分の下に位置し、手前は加熱されないように出来ています。

茶摘みが原因による不均一な殺青

釜炒り工程にはお茶の摘み方が大きく関係します。お茶を摘む際に大事なのは均質性です。一芯二葉なら一芯二葉、一芯四葉なら一芯四葉という具合に、茶葉を均一な規格で揃える必要があります。一芯二葉と一芯四葉のようなより成長した茶葉が混在すると、それぞれの茶葉に含まれる水分量が異なるために、釜炒りをした際、均一に熱を加えることが出来ません。その結果、大きな茶葉にあわせて熱を加える事になるため、結果的に一芯二葉のような若い茶葉は過度に加熱されてしまい、お茶の新鮮な香りが抜けてしまいます。均質に茶葉が摘まれるように管理を行うためには、生茶葉の仕入を行う人の品質意識が高くなければなりません。私がお付き合いしている生産者は、茶葉が均一に摘まれてなかった場合、生茶葉の買い値を1/4位に下げてしまいます。農家としては、出来るだけ高く売りたいため、その周辺の村では、茶摘みに気をつける文化が根付いております。反面、少数民族の農家が自らお茶を摘み、加工まで行った場合、茶摘み規準が曖昧になる事が多く、結果、殺青が不均一になりがちです。

摘む時期が遅くなるほど炒ったような香りが強くなる傾向

お茶は春一番に発芽した芽を摘み取ると、次の芽が生えてきます。それを摘むと、また次の芽が生えてきます。日本茶の場合、三番茶くらいまででしか収穫されませんが、中国の場合地域によっては三番茶以降のお茶も摘まれます。特にプーアル茶や鉄観音の有名茶園になると、年間十回くらい茶摘みが行われることもあります。お茶の場合、茶摘み時期が遅くなるにしたがって茶葉の水分が少なくなります。煎茶のような外部から蒸気を加える蒸青(蒸気で蒸すこと)と異なり、茶葉そのものに含まれる水分で殺青する釜炒り茶の場合、茶葉の水分が低いと言うことは、同じ温度で釜炒りをした際、発生する水蒸気が不十分になります。このため、生産者はそれを補うため、より高い温度で加熱し、少ない水分でも十分な蒸気が得られるように調節します。この結果、お茶の香りが、煎った豆のように香ばしくなります。十分な水分を含む一番茶の場合、低い温度でも十分な量の蒸気が得られるため、加えられる熱が最低限に留められており、お茶本来のフローラルな香りに仕上がります。

普及が進むドラム式の釜炒り装置

近年ではドラム式の釜炒り殺青装置も国内外で見られます。雲南省におけるプーアル茶の有名産地の多くはドラム式の殺青装置を用いております。


ドラム式の場合、ドラム内に蒸気が充満することから、温度が下がりにくく、お茶の水分量が少なめでも安定的に殺青を行うことが出来ます。ただし、ドラム式の場合、殺青条件が一律になりやすく茶葉の状態に応じて瞬時に条件を変えにくいという短所もあります。ドラム式はどちらかというと、量産に向く方法だと思います。また、ドラム式の釜炒り殺青装置の中には蒸気を加えるハイブリットタイプもあります。これらの方法を用いると、水分が少なめの2番茶以降のお茶でも温度を上げることなく殺青することが出来、鮮度の高い香りに仕上げる事が出来ます。

私は一番茶のみを扱っているため、また、個性豊かな原料が多いため、ドラム式の殺青装置ではなく、釜式を使って仕上げております。

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