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- お茶の品質を決める各種要素
森の中の茶園と日当たりの良い茶園はどちらが理想?
- [2017.09.06] Written By 北城 彰(Akira Hojo)
お茶の品質に影響する重要な要素の1つに「日当たり」があります。一般的に日本や台湾では日当たりの良い茶園が好まれる傾向があります。一方、インドや中国には、森林の中にお茶の木がある茶園があり、それを長所として紹介している生産者もおります。果たしてどちらの環境が良いのか判定に困るのではないでしょうか?そこで、森の中のような日陰で作られたお茶と、日当たりが非常に良い場所で作られたお茶、南や東向きの茶園と、北や西向きの茶園など、日当たりがお茶の味香りににどのような影響を与えるのか、私の経験を交えて解説したいと思います。
両極化するプーアル茶の茶園
プーアル茶用の茶園の多くは日当たり良好な斜面に位置してます。しかし、その逆の産地もあります。特に南部の四双版納やその隣に位置する景邁(チンマイ)という地域では、多くの茶園が森の日陰に位置しております。現地の茶商や生産者からは、「景邁のお茶は森の中にあるために、花のような香りがする」と説明を受けることもありますが、果たしてその真偽はどうなのでしょうか?
景邁の古代茶園
同じ条件のお茶を日当たりが良い茶園と日陰の茶園で比較
日当たりがお茶の味香りにどう影響するのか検証するため、同一エリア内にある日当たりのよい茶園産のお茶と、日陰のお茶を同じように加工し、味香りを比較しました。また、生の茶葉の時点でも口に入れて味香りを評価しました。栽培方法による影響を排除するために、日当たりの良い茶園、日陰の茶園共に無肥料無農薬で人の手が全く入っていない野放茶園を選びました。木の樹齢についてもほぼ同じくらいの樹齢のお茶を選びました。それぞれの生茶葉の外観、味香りの評価し、更に、それぞれをプーアル生茶に加工し、それぞれの特徴を評価しました。烏龍茶については、東南向きの茶園で収穫されたお茶と、西北向きの茶園で収穫されたお茶をそれぞれ比較しました。以下の写真は日陰の自然栽培茶です。
森の中に自生していた放置状態のお茶の木
日陰にあるお茶の木は濃い緑色で大きな葉を付ける。
日当たりで茶葉の外観が変化
日当たりの善し悪しはお茶の外観にも影響を与えます。日向のお茶はお茶の葉が小さく、色は黄緑色、葉脈は細くなります。それに対して、日陰のお茶は、茶葉は数倍と極めて大きく、色は深い緑色、葉脈は太くなります。また、日陰のお茶の方が成長が遅い点に気がつきました。
日当たりの良い茶園
日当たりにより顕著に変化するお茶の味香り
味と香りを検証したところ、プーアル茶、烏龍茶等の種類に関係無く日当たりと味の関係には共通の法則が観察されました。日当たりの強い茶園産のお茶は、味に透明感があり、香りは強く感じられました。逆に、日陰や日当たりがよくない茶園で作られたお茶は、後味(味の奥行き)は日当たりの良い茶園のお茶よりも強くなります。味は日当たりの良いお茶のような透明感はなく、玉露に代表されるような、半透明(マイルド系)の味がしました。更に、日陰のお茶のもう一つの特徴としては、舌に残る渋味を呈する点です。不快というレベルの渋味ではありませんが、日陰のお茶には必ず渋味が感じられました。また、日陰のお茶は日向のお茶よりも香りは弱いのですが、共通して、僅かにレモンのような柑橘系の香りが感じられます。
味と香りについては、好みもあるため、日当たりの善し悪しで優劣を付けるべきではありませんが、販売者の視点からすると、日向で作られたお茶の方が明らかに売りやすいのは確かです。日向のお茶は香りが強く、華やかであるため、飲んだときに印象に残りやすく、より多くの人に好まれる個性を有しております。香りの強いお茶を好む人は、日当たりの良い茶園産のお茶を探すと良いでしょう。
日当たりの良い茶園
- 味香りに透明感がある
- 香りが強く華やか
- 茶葉は小さく、葉脈が細く、色は黄緑色
日陰の茶園
- 味がマイルドでやや半透明
- 余韻(コク・後味)が強い
- 僅かに柑橘系の香りを呈する
- 僅かに渋味を呈する
- 茶葉は大きく、葉脈が太く、濃い緑色
山菜の味香りについてもお茶と同じような傾向が観察される
面白い事に山菜などでも類似の傾向が観察されます。私は山が好きで、山菜狩り・キノコ狩り等、自然の食材を求め、人一倍山を歩きます。例えば、タラの芽でも、山の中の日当たりの悪い場所で収穫すると、後味(コク)が強く、味は透明と言うより半透明、香りはマイルドに感じられます。逆に、山の周辺や木を伐採した日当たりの良い場所で収穫したタラの芽は、香りが強く、味に透明感がある反面、後味(コク)の強さは日陰で収穫したものほどではありません。ワラビやフキについても同じ傾向が観察されます。
景邁(チンマイ)のお茶が香り豊なのは半発酵による作り方ゆえ
前述した景邁(チンマイ)のお茶に関しても、日陰のお茶特有の味香り傾向を呈します。しかし景邁で作られたプーアル茶は特徴的に烏龍茶のような花の香りがします。これは、殺青を軽く行うことで、意図的に酵素を残存させ、天日乾燥中に酵素発酵を促すことで半発酵に仕上げているためです。景邁のお茶は森で作られているから香りが良いと勘違いされがちですが、これは原料の生育環境とは関係無く、製茶に発酵工程を取り入れているためです。
渋味の原因は葉緑素に含まれるマグネシウム?
日陰で栽培されたお茶のコクが強く、渋味が多少感じられる理由を考えてみました。まず、コクに関してですが、私の経験上、コクの強弱は成長速度と比例関係にあります。日陰で育ったお茶は、日当たりのよい茶園産のお茶よりも収穫期が1週間以上遅いことから、この点がコクの強さに関係しているように思います。また、日陰のお茶に特徴的に見られる渋味に関してですが、日陰のお茶に含まれる大量の葉緑素が関係していると考えております。日陰で栽培されたお茶は、まるで黒光りしているような濃い緑色をしております。限られた太陽光をより効率的に吸収するために、茶葉はより多くの葉緑素を作り、また、お茶の葉の表面積を大きくします。葉緑素はクロロフィルという物質ですが、クロロフィルはその中心にマグネシウムを保有しております。製茶過程で葉緑素は酸化され一部のマグネシウムイオンが溶出するためにお茶が渋味を呈するのでは?と推察しております。マグネシウムは特徴的な渋味を呈する金属です。以前の記事で詳しく説明しておりますので興味のある方はこちらをご覧ください。
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