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有機茶が健康に良いとは限らない!サステナブルな自然栽培茶とは?
- [2019.06.18] Written By 北城 彰(Akira Hojo)
Sustainable(サステナブル)とかSustainability(サステナビリティ)という言葉を聞いたことありますか?日本ではあまり馴染みのない言葉ですが、ヨーロッパではOrganic「有機」と同じくらい頻繁に使われ、誰もが知る言葉です。
サステナブルとは、直訳すると持続可能、維持可能、持ちこたえる事が出来るという意味です。農業分野で使われた場合、植物が人の手を借りずに、環境の一部として継続的に繁栄できるという意味。つまり、人から独立し、自給自足できている状態をさします。
なぜ有機栽培茶では不十分か?
サステナブルな茶園と有機茶園は意味が似ているようで実際は全く異なります。
サステナブルな茶園と有機茶園の最大の違いは、サステナブルな茶園では窒素肥料を全く用いません。お茶の木は周りの環境から窒素を取得します。窒素を自給自足することで肥料が無くても持続的に生育し続けられるのがサステナブルな茶園です。有機栽培でも窒素肥料を使わない茶園はサステナブルと言えますが、現実的には多くの有機栽培茶園は、肥料を積極的に使用しております。有機栽培有機認証を取得、維持するには非常にコストがかかります。多くの茶園オーナーは有機認証を取得することは「投資」と捉えているため、投資を回収するため、生産量を上げるようと多量の有機窒素肥料が使われるのが一般的です。窒素肥料を与えたお茶の木は短期間で成長しようとし、その結果、お茶の葉を構成する各細胞は肥大化します。成長にエネルギーを使ってしまうため、肥料を施肥した茶葉には生体防御物質であるポリフェノールが非常に少なくなります。この為、有機栽培でも肥料を与えたお茶は、病気に弱く、虫に食われやすくなります。このようなお茶の木は、サステナブルの定義からは外れます。サステイナブルな茶園であるためには、有機認証の有無以前に、無肥料栽培であることが重要です。
サステナブル(自然栽培)の茶園とは
サステナブルな茶園とは、人が一切肥料を与えず、環境中から得られる窒素源だけで生育できているお茶の木、つまり、植物自立している茶園をさします。ある意味、山や自然の植物は人が肥料を与えなくても、生き続けております。植物は生き続けるためには、窒素、炭素、ミネラルを吸収する必要があります。ミネラルは土壌中にあり、炭素源は枯れた植物が分解されることで、比較的容易に取得できます。植物にとって最も取得が難しいのが窒素です。窒素は虫の死骸や動物の糞尿からも得られますが、それは特殊なケースで、自然界には、空気中の窒素を取り込むことが可能な微生物と共生している植物が多種類存在し、それらによって取り込まれた窒素が、生態系の中で循環しております。この為、無肥料の茶園を維持しようとした場合、周りの植物を残してあげることが重要な課題です。
健康の連鎖、不健康の連鎖
お茶を飲んで健康になろうと思ったら、健康なお茶を飲むことが大切であると私は考えております。有機栽培でも、窒素肥料を与えずに栽培したお茶は、お茶の木が健康的です。
肥料を与えてないお茶の木は、時間をかけてゆっくりと生長します。ゆっくり成長すると言う事は、光合成速度も遅くなります。その結果、光を受けるお茶の葉の面積は小さくなり、光合成に必要な葉緑素も少なくなります。その結果、お茶の葉は小さく、黄緑色へと変わります。このように成長したお茶の葉を構成する細胞は非常に小さく、高密度になります。ゆっくりと育ったお茶は、自らの機能のため、細胞内に沢山のポリフェノールを蓄積します。サステナブルなお茶の場合、一般の茶園のお茶と比べると、数倍以上のポリフェノールを含みます。
不思議なことに、肥料を与えずに育ったお茶には殆ど虫が付きません。慣行栽培から自然栽培に切り替えると、最初の数年間は虫被害が酷いそうですが、7-8年経過した頃から、お茶に害虫が殆ど付かなくなります。全く消毒してないのに、虫害が殆ど無いのです。
「健康の連鎖」あるいは、「不健康の連鎖」という概念を考えたことはありますか?健康的なお茶を飲むことは、そのお茶に含まれる豊富な機能性物質を享受することが出来ます。天然のウナギ、天然の牡蛎、天然のシジミが健康に良いと言うことは普通に知られておりますが、栽培物になると、意外とその感覚が薄れがちです。天然の食材と同じく、サステイナブルなお茶の木は、機能性成分に富んでおり、お茶の木自体が健康です。健康なお茶を飲んで健康を維持するというのはごく自然な考え方ではないでしょうか?
サステナブルな茶園の魅力
私がサステナブルな茶園に興味を持ち始めたのは、実は、健康のためとか、エコロジーに興味があったわけではなく、お茶の産地に毎年長期滞在しつつ美味しいお茶を探し求めた結果、無肥料のお茶が非常に美味しい点に気がついた為でした。お茶の発祥の地である中国では、超高級茶の殆どは無肥料のお茶から作られます。無肥料で時間をかけて育ったお茶は、ポリフェノールや鉄分を多く含みます。実はワインも同じで、高品質のワインは、窒素肥料を与えずにゆっくりと成長させることで、豊富なポリフェノールを有します。このようなお茶やワインは、後味が非常に濃く、余韻が長く、濃く体に染み入るような香りを呈します。私が、中国の遠隔地の田舎で出会った、究極の美味しいお茶はどれも、お茶の木が周りの自然と調和し、半野生状態の茶園から作られたお茶でした。
面白い点は、品質を追求したら、健康なお茶だったという点です。品質面でも、健康面でも、ゴールは同じなのです。
雲南省はサステナブルな茶園の宝庫
お茶は多くの国で作られておりますが、私の経験上、最もサステナブルで自然な状態の茶園が多いのは、断トツで中国の雲南省だと思います。雲南省は日本の国土よりも面積が大きく、その90%が山岳地帯によって構成されます。遠隔地の村へ行けば行くほど、お茶の木が自然な状態で半ば「放置」されており、周りの雑草もお茶摘みの前に刈る程度で、年間を通じて茶園の周りには様々な草木が生い茂っております。他の地域であれば、物凄い高級茶の原料になるようなお茶の木ですが、極めて遠隔地という理由から、現実的な値段でお茶を入手する事が出来ます。私は雲南省のお茶の質に魅せられ、今では年間の2ヶ月以上を産地で過ごしておりますが、雲南省ほど茶園が自然と調和している地域はありません。
サステナブルな茶園を温存するために
雲南省には自然な状態で健康なお茶の木が多いと説明しましたが、それは雲南省全体にその様な茶園が普遍的にあるわけではなく、全体からしたら、ごく一部です。主に良い状態の茶園が残っているのは、概して僻地の、村から離れた茶園です。
中国では、お茶の産地が有名になると、瞬時にお茶の値段が高騰します。中国では必ず見られる現象なのですが、お茶の値段が高騰すると、茶園のオーナーはより生産量を増やそうと、肥料を積極的に使うようになります。一旦肥料が使われると、産地、お茶の木の樹齢に関係無く、お茶の品質は劇的に下がります。また、肥料を与えたお茶の木は弱くなり、樹齢数百歳のようなお茶の木がいとも簡単に枯れてしまうこともあります。まさに、文字通り「持続可能な茶園」「サステナブルな茶園」ではなくなってしまいます。
動物性の肥料が入った茶園:茶葉が深い緑色をしており、葉が大きく、木は焦げ茶色に変化します。
嬉しいことに、中国では近年「生態茶」「生態茶園」という言葉がブームになりつつ有ります。これまで老木や有名産地にばかりが強調されておりましたが、ようやく茶園環境の重要性が着目されるようになりました。ただ、残念な事に生態茶園と呼ばれる茶園の殆どは家畜の糞尿を使用しているのが実情です。茶園のオーナーの多くが家畜の糞から作られた肥料は天然由来だから良いと勘違いしているためです。
このような状況ゆえ、私にとって、産地の人々を教育することは非常に重要な課題と考えております。将来にわたって、サステナブルなお茶を文字通り継続維持して貰う為には「なぜ肥料を与えたら駄目なのか」を理解して貰う事が重要です。この為、事ある毎にサステナブルな茶園から作られた自然栽培茶と肥料を与えて作られたお茶の違いを生産者にも体験して貰い、学んで貰っております。普段から健康的な食材を食べている彼らは、驚くほど味覚感度が高く、2つ並べてテイスティングをして貰うと瞬時に優劣を見抜きます。実体験を持って、違いを理解して貰ったうえで、高品質なお茶に対して、相場よりもやや高い値段で仕入れてあげることで、無肥料栽培茶に価値があることを経済的な観点からも感じて貰っております。大事なのは、産地が有名だから高い値段で仕入れるのではなく、品質的に価値があるから高い値段をを出すという点を明確に理解して貰う事です。
今後も、多くのサステナブルな茶園を開発し、多くのお茶を紹介していきたいと思っております。
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