どんなお茶の味もふくよかにする秋津無名異急須

[2015.09.01] Written By

無名異焼
新しく秋津無名異という名の土の茶器を発売しました。土についての説明は商品の紹介ページでも記載しておりますが、念のために、ページ後半にてに同じ内容を紹介いたします。本稿では1番重要な点である、土の性能に的を絞って説明をしたいと思います。

https://hojotea.com/item/tozo_akitsu.htm
https://hojotea.com/item/tozo_akitsu_reduction.htm
https://hojotea.com/item/tozo_akitsu_tanka.htm

ボディを強力に高める秋津無名異

まず、秋津無名異を開発する上で最も重要視したのは、お茶をいれたときのボディです。ボディとはお茶を口にいれたときに感じられる味香りの広がりを指し、日本語ではふくよかさと呼ばれる感覚になります。例えば、ボディを高める種類の土で作られた茶器でダージリンティをいれると、香りが非常に華やかに感じられ、口の両脇に甘味が残ります。逆に野坂還元のようなボディが最小限になる土の場合、透明感のある落ち着いた香りへと変化し、華やかさは減少する反面、飲み込んだときに感じられる味奥行き、喉の奥からじわじわと戻ってくる余韻が強いお茶へとかわります。秋津無名異は、2つの天然土、秋津産の赤土と野坂産の黄土をブレンドして仕上げました。従って、ボディに加え、コクに関しても満足の行く仕上がりになっております。

お茶の性格を劇的に変える茶器

私自身、半年ほど前に作り上げた試作品の急須で色々なお茶をいれてみましたが、紅茶や台湾の烏龍茶はもちろんですが、プーアル生茶や白茶に対しても非常に相性の良い土であると感じております。例えば、岩鳴山白茶や古樹銀針のようにボディが軽めのお茶を、を秋津無名異の急須でいれると、ボディが増大することから馬鞍山古樹白茶にとても近い味わいになります。
お茶を美味しくするという使い方は勿論ですが、私としては秋津無名異の土を通すことで「お茶を別の性格に変える」という楽しみ方が好きです。特に、日本茶やダージリンのように比較的ボディの細めのお茶と組み合わせると、変化の幅が大きく面白いと思います。

3つの異なる焼き方

今回発売しました秋津無名異焼ですが、3種類のバージョンがあります。

  1. 酸化焼成
  2. 還元焼成
  3. 炭化還元

どれも同じ土で作られておりますが、焼き方により見た目が異なります。実は、見た目だけでなく、土がお茶の味に与える影響についても同じではありません。

酸化焼成

酸化焼成はボディが最も強い土です。この土は、強いボディゆえに紅茶や台湾の烏龍茶との相性が抜群に良い土です。酸化焼成とは釜の中に酸素がある状態で焼き上げた焼き物のことです。

無名異焼

還元焼成

還元焼成はボディ・コク共に酸化焼成と炭化還元の中間的な性格に仕上がっております。ボディは同じく非常に強い土ですので、紅茶や烏龍茶、または、ボディが弱めのお茶をよりふくよかにすると言う目的に適しております。還元焼成とは釜内部の酸度が限りなく低い状態で焼き上げた焼き物のことです。土に含まれる鉄が還元されることで、二価の鉄を含みます。

無名異焼

炭化還元

炭化還元の土はコクについては3つの焼き方の中で最大ですが、ボディに関しては、3つのなかでは最小です。ただし、秋津無名異自体がもともと非常にボディの強い土ですので、炭化還元でも十分なボディが感じられます。炭化還元はコクが強めであるため、幅広いお茶とあわせやすく、緑茶やプーアル茶をいれるのにもお薦めです。炭化還元とはもみ殻・おが屑・炭の中にいったん酸化焼成で焼き上がった茶器を埋め、1000℃以下の低温で蒸し焼きにすることで作り上げます。

無名異焼

無名異焼

 

—–以下秋津無名異の説明です—–

朱泥でも味への影響は千差万別

佐渡島は海底火山により形成された島ゆえに、多種多様な鉱物が産出します。特に旧相川金山で産出した金銀が有名ですが、この他にも胴やマンガンなど豊富な鉱物が産出しております。この、火山特有の地質ゆえに、佐渡の土にはミネラルが豊富に含まれており、その中でもHOJOでは朱泥に着目して、茶器をプロデュースしております。朱泥とは酸化第二鉄を豊富に含み、焼き上げると朱色になることから朱泥と呼ばれます。お茶の味を非常に円やかにすることから、佐渡では伝統的に無名異と呼ばれる朱泥の茶器が作られてきました。一般的に原土が黄色〜オレンジ色をしている土は朱泥と呼ばれます。

佐渡を始め、日本各所において朱泥系の土は昔から急須の原料として珍重されますが、朱泥だからと言って、どの土もお茶の味に対して良い効果があるわけではありません。実際、朱泥の種類の数だけ、お茶の味の代わり方にも違いが生じます。朱泥でも含まれるミネラルの種類や量によっては、味を良くするどころかむしろ、悪くする場合もあります。味を悪くするとは、つまり、余韻をカットし、味の奥行きを無くしたり、香りの広がりが無くなる、また、舌にざらつきを生じる等の感覚をさします。

旧相川金山の跡

大佐渡山脈

紅茶・烏龍茶・プーアル生茶との高い相性

今回紹介する秋津無名異という土は、ふくよかさを強力に高めます。ふくよかさとは、ボディと呼ばれお茶を口にいれたときの香りの広がり、口蓋部分で感じられるじんわりとした甘みをさします。紅茶にミルクを加えると、ミルクに含まれるカルシウムイオンの影響でふくよかさが高まりますが、秋津無名異で紅茶をいれると、ミルクがないにもかかわらず、香りに広がりが付与され、口の中いっぱいに広がる香りと、ふわっとした甘味が感じられます。この特徴は、台湾の烏龍茶、プーアル茶、ダージリンや中国産の紅茶に絶大な効果を発揮します。ボディを高める効果は、香りの感じ方も高める為、普段飲んでいる烏龍茶を秋津無名異の土でいれると、別の銘柄かと思うほど香りが鮮烈に感じられます。秋津無名異土によって高められるボディの強さは、HOJOの茶器のラインアップの中でも最大級です。

渡辺陶三氏

今では幻の土となった秋津無名異

佐渡島における無名異焼の土は伝統的に「野坂」と呼ばれる相川金山付近に位置する「野坂と言う部落」で産出する、非常に粘りがあり、黄色をしたの天然土と相川金山内、及び金山の近隣の山で産出する無名異と呼ばれる、粘度が少なく、原土が赤い色をしている土をブレンドすることで作られます。それに対して、秋津無名異は相川金山周辺ではなく、秋津と呼ばれる地域で産出した土に野坂の黄土をあわせております。秋津地域とは現在の佐渡空港が位置している地域であり、地域としては両津に属します。佐渡には加茂湖という汽水湖がありますが、この直ぐ脇の地域です。秋津地域はまた大佐渡山脈の裾に位置し、金北山という佐渡島最大の山の下流域に位置します。その昔空港の建設前に渡辺陶三氏が取得した土が倉庫に眠っていたのですが、テストピースを製作して試験をしてみたところ、意外にも非常に良い土だったのです。尚、今回製作に使用している秋津無名異の土が産出された場所には既に空港が建設されており、今後の同質の土を採掘することは出来ません。このため、渡辺陶三氏が保有する土が終わり次第この土は無くなります。

加茂湖

野坂の原土

味が非常に良いにもかかわらず急須に用いられてなかった秋津の朱泥

その昔は、秋津の土は瓦を焼くのに用いられており、急須づくりに用いられていたのはもっぱら相川産(相川金山周辺産)の無名異土でした。ただし、味の観点から評価したところ、驚くべき事に秋津の土は非常に突出する性能の土でした。日本の焼き物業界は、土と味の関係ではなく、焼き上がりの色合いや見た目、或いは歴史的な評判に基づいて土が選ばれることが多く、今回のように、マイナーだった土が実は味の点では非常に優れていたというケースは時々あります。野坂と秋津無名異のブレンド比や焼成温度を最適化するため、サンプルを焼き上げ味のテストを繰り返した結果、最終的に焼き上がりの質感と、味の両方の点で最適化することができました。

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