お茶の味を美味しくする朱泥急須と美味しくしない朱泥急須

[2013.02.09] Posted By

野坂土による急須

中国でも、日本でも朱泥急須という言葉が氾濫しておりますが、急須が赤ければ朱泥と呼んでしまって良いのでしょうか?
中国の急須の産地、宜興と言えば、「紫砂茶壺」が有名です。紫砂と言うのは宜興産の土の総称であり特定の種類の土を指している名称ではありません。宜興の紫砂が有名になったのも元を正せば朱泥に起因します。宜興の朱泥がお茶の味を非常にまろやかにすることから、その名は中国にとどまらず、世界中に広がったのでした。その後、紫泥、段泥、紅泥など、様々な土が制作に用いられておりますが、優れた朱泥と比べると性能には大きな開きがあります。

宜興の朱泥茶壺は日本へも伝わり、江戸時代には日本でも宜興の朱泥急須がブームになっていたようです。質の良い宜興製の朱泥急須は非常に高く、所有することは一種のステイタスシンボルだったそうです。

朱泥の3つの特徴

なぜ朱泥だけがそれほどに特別なのでしょうか?性能の面から朱泥の特徴を評価すると以下3つの特徴があります。なお、朱泥の定義に関する取り決めがあるわけではないため、どれが朱泥というルールや決まりはありません。ただし、専門家や年配の陶芸家から得られる情報、また、私の調査に基づく朱泥の特徴をまとめると以下の様な定義になります。同時に、以下の定義に沿った土であれば、お茶の味をまろやかにする性質を有します。

1. 粒子が非常に細かい点
2. 鉄分が豊富に含まれる点
3. 他の金属ミネラル(亜鉛や銅など)を余り含まない

鉄分に関しては、朱泥に限らず、紅泥など他にも鉄分を多く含む土は多く存在します。紅泥は原土の状態でオレンジ色、焼成後は赤く発色します。粒径が粗めで、粘度が少なく、ややサラサラしております。反面、朱泥はべっとりとして、粘度があります。
<粒径が細かいと言うことは、より低い温度(1100℃++)で焼成することが可能になり、また、粒子が小さいために、土表面が多孔質になります。微細なミネラルにより構成される急須表面は膨大な表面積を有することから味が顕著に変化します。表面積が大きいこととミネラルイオンが放出されることと何らかの関係があるものと推察しております。

佐渡の無名異土:この土は原土の状態ではオレンジ色をしており、宜興の紅泥と非常に近い性質をしている。

宜興の紅泥:土は粘土質ではなく、砂質を微粉にしたような性状をしている。

朱泥の特徴ですが、原土の状態では黄土色をしております。ただし、すこしグレーや緑かかった色の土の場合もあります。このように色が付いている場合は、鉄以外の金属、例えば亜鉛などが含まれる場合が多く、渋味を呈したり、コクを逆に無くす場合があります。朱泥のもう一つの特徴として、1100-1150℃位の温度で焼いたときに朱色を呈すことです。朱色を呈するから朱泥と呼ばれるわけで、この色合いも朱泥を判断する上で重要な規準となります。以下の色を参考にしてみてください。
http://www.colordic.org/colorsample/2245.html

日本にもある高品質の朱泥

実は日本にも宜興の朱泥に匹敵する良質な朱泥があります。愛知、三重、岐阜は、その昔東海湖という湖の底でした。この湖の底に堆積した微細な土が良質の朱泥として産出します。宇治茶の生産地域周辺は湖琵琶湖層といって、琵琶湖の底だったことから、これらの土地でも良質の朱泥が産出します。江戸時代の後半には、宜興の朱泥茶壺をまねて、常滑や佐渡島でも朱泥急須が作られるようになりました。ただ、近年、国産の朱泥急須の多くは、これらの天然朱泥からは作られておりません。見た目と名称は朱泥でも、お茶の味を殆どまろやかにしない「朱泥急須」が主流となりつつあります。

野坂土=宜興の朱泥に見た目も性能も非常に近い

野坂土

今では主流となっているベンガラ入りの朱泥急須

流通している多くの「朱泥急須」の場合、朱泥風の色を出すためにベンガラという鉄の粉が土に混ぜて使われております。鉄の粉なので、酸化焼成すれば赤くなります。このベンガラ入りの朱泥は日本だけでなく、宜興製の手作り急須でも多く見られます。また、潮州製、台湾製の朱泥茶器に関してはその殆どがベンガラ入りの土で作られております。

ベンガラと言っても、鉄なので体に悪いわけではありません。ただ、ベンガラは人工的に粉砕した鉄の破片なので、天然の朱泥のように自然に形成された結晶ではありません。この結果、ベンガラは融点が低く、1000℃以下の焼成温度で溶け始めます。溶けたベンガラは液化し、他のミネラルの表面も覆ってしまうため、土は多孔性を失い、味に対して殆ど寄与しなくなります。

慣れると外観で大体見分けが付くベンガラ入り急須

実は慣れてくるとベンガラ入りの急須は見た目で同定することが出来ます。表面が不自然に反射しており、土表面のきめ細かさがありません。本来天然の朱泥であれば、表面が溶けて反射するまで高温で焼成した場合、エンジ色に変色します。
ベンガラ入りの土を朱泥と呼ぶことに関しては、作家の自由であり何ら問題ないことですが、ベンガラ入りの急須では朱泥本来の性能は発揮されません。ベンガラ入りの急須の場合、ベンガラがガラス化しているために、その性能はガラスの茶器とほぼ変わりません。それに対し、天然朱泥で作られた茶器の場合、比にならないレベルで顕著にお茶や水の味をまろやかで軟らかくします

ベンガラ入りの陶器は写真の様に表面がぎらぎらとしております。この写真の茶壺は宜興の有名な作家によるものです。宜興でもベンガラ入りの土がかなり一般化しております。

今後も、国産の優れた土を紹介していきたいと考えております。

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