私は雲南省産のお茶については自然栽培か野生のお茶を専門的に扱っております。私が定義する自然栽培茶とは、周りの生態系の一部として、人の手を借りなくても自立して生育しているお茶の事です。

美味しさゆえの自然栽培茶

自然栽培茶を求めるのは、安心安全が主な理由ではありません。安心安全を求めるのであれば、有機栽培茶で十分でも十分す。自然栽培茶は、農薬はもちろん、肥料も与えません。無肥料ゆえに茶葉が非常にゆっくりと成長します。このため、ミネラルやポリフェノールなどの成分が濃厚になり、後味が非常に強く、味わいが軟らかく、香りの余韻が長いお茶が出来ます。味の感覚が鋭い人にとって自然栽培茶は別次元の感動を味わうことが出来るお茶です。穀物、野菜果物等のように食料として作られている農作物の場合、現代農業方式により、量を確保することは人の生活を安定させる上で重要と思います。しかし、お茶は「嗜好品」ゆえに、私はストイックに品質を求め、自然栽培方式の作り方を重要視しております。

お茶の木の周りの生態系は自然栽培に不可欠

自然栽培茶とは人の手を借りなくても自立しているお茶をさしており、ある意味、野生化したお茶と言えます。植物が自生する上で特に不足がちになるのは窒素です。現代農業では窒素肥料を与えることで窒素を補充しますが、自然の中に生えている草木や山の木などは、肥料が無くとも力強く生きております。野生の植物・自然栽培茶の場合、草木を初めとする周りの生態系を通じて窒素肥料を吸収します。草木の中には根に根粒菌と言って空気中の窒素を取り込むことの出来る微生物と共生している植物があります。空気中から取り込まれた窒素は、土壌中の生態系を通じてお茶へと循環します。当然、お茶の木のまわりに草木が無い場合、生態系から窒素を取得することが出来なくなります。そのまま放置したらお茶の木は枯れてしまうため、当然、窒素を補助する必要があり、その結果、窒素肥料が必要になります。

自然栽培茶の老木:草木に囲まれているため、初めての人には茶園かどうかすら分からないような状態です。

良いお茶を探すときは地面を見る

理想的な状態の自然栽培茶を探すときに大事なのは、まず最初に地面を見ることです。自然栽培茶は自然の草木に囲まれております。それに対し、肥料が入っている茶園は、地面が掘られており、また、土の色が露出しております。一般的に、集落の近くにある茶園ほど、肥料が入っており、距離が離れたり、アクセスが困難な茶山になると、自然栽培の割合が増えます。

上の写真は自然栽培茶、下の写真は肥料が入っている茶園。自然栽培茶とそうでない茶園は地面の状態が全く異なります。

近年、肥料栽培へとシフトした茶ばかりの園。地面が掘り起こされてます。

地元で混同されている自然栽培茶と有機栽培茶

自然栽培茶は中国語では「生態茶」という名称で呼ばれます。ただ、困ったことに、現地で視察をすると、多くの人が家畜の糞で作られた堆肥が用いられていても、生態茶と呼んでいる点です。堆肥は自然由来だから生態茶、化学肥料は人工的だからアウトと考えている人が大多数です。お茶にとっては有機窒素肥料の方がむしろ利用しやすく、急速に成長します。雲南省の村では動物の糞から堆肥を作り茶園に与えていることが多く、これらの肥料が入ると、お茶の味も香りも劇的に変化します。肥料が入ることで、香りが弱まり、お茶は渋味と苦味が増し、味に透明感が無くなります。生の茶葉を鼻に近づけてみると、自然栽培茶は香りが非常に強く、逆に、窒素肥料栽培茶は香りが顕著に弱く感じられます。また、肥料栽培茶の茎は非常に脆く、簡単にポキポキと折れるのに対し、自然栽培茶は非常にしっかりとしております。中国では「生態茶」が「有機栽培茶」と混同されるようになっていることから、仕入を行う場合は実際に茶園の状態や原料となる生茶葉の確認をすることが重要です。尚、生態茶の定義が微妙ゆえに、近年中国では本当の意味での「自然栽培茶」に対して「野放茶」という名称を使う人が増えております。

お茶の木の根元にある黒い部分が肥料

お茶の木の周りは土肌が露出しており、全く他の植物が無い茶園:写真上下。これでも地元では生態茶園と呼ばれています。

例外の植物性肥料

日本やダージリン、台湾などでは雑草から作られた肥料を茶園にいれる方式で自然栽培を補助している茶園があります。草を茶園にいれる方式は、基本的に生態系における窒素循環に準ずる効果があるため、私は自然栽培の一部と認識しております。

肥料を与えたお茶は1週間以上収穫が早い

今年の雲南省はお茶の成長が非常に遅く、まだ、極一部のお茶が収穫されているのみです。ただ、この時期に産地にいると非常に勉強になります。質が良いお茶はどれも成長が遅く、未だに、小さな芽の状態であるのに対し、肥料栽培茶、お茶の幹を切り落として成長速度を速めたお茶、低い標高の茶園のお茶は成長が早く、一週間以上早くに収穫が行われております。実際、同じ村の同じ地域でも、肥料栽培茶は7-10日位早く成長します。一般的に、村の周辺は肥料が多く与えられ、集落から離れるほど肥料が少なくなり、放置状態になっている茶園が多くみられます。皮肉にも、村の周辺に非常に高樹齢の老木があることが多く、肥料漬けになっている為に茶葉が青々として、勢いよく成長しております。

地面が露出している有名産地の老木

成長が遅い自然栽培茶は、今週の時点では僅かに芽があるだけでした。

交通インフラの改善による自然栽培茶の激減

実際、お茶の栽培農家にとっては合計収入が大事であり、自然栽培かどうかは重要ではありません。自然栽培茶と肥料栽培茶の茶葉買い取り価格が同じであれば、自動的に収穫量が多くなる肥料栽培を選びます。近年、交通インフラが改善されたことから、山奥の村へも比較的行きやすくなり、これまで無名だった産地が広く人々に知られるようになって来ました。産地が有名化すると、プーアル茶を求めて専門的な品質評価が出来ない観光客や個人収集家農家が多く訪れるようになります。その結果、肥料栽培茶でも良く売れるようになる事から、農家は収穫量が極端に少ない自然栽培をあっさり止め、せっせと肥料を与え、単位面積あたりの収穫量を増やします。有名地域ほどこもこの傾向が強く、雲南省南部の四双版納のように観光客が頻繁に来る地域は、その殆どが、肥料栽培へと変わっております。臨滄地区でも、昔帰、氷島、忙肺など、一昔前まで良いお茶が作られていた産地の多くが、肥料栽培へと変貌しております。

自然栽培茶の品質を理解する事が自然栽培茶を守ることに繋がる

上記の理由から私は努めて、山奥僻地の産地からお茶を仕入れるようにしております。観光客が殆ど来ないような僻地においては、農家が収穫した生茶葉は地域に密着した加工業者へ販売されます。このため、お茶の価格は加工業者農家判断で決まり、加工業者の値段の付け方が結果的に農家の行動を左右します。正しい品質評価が出来る茶師(生茶の仕入と加工を専門とする人)は、「自然栽培」がお茶の品質を維持する上で重要という点を良く理解しております。彼らは、自然栽培茶に対して肥料栽培茶の4-5倍ほどの買い取り価格を提示します。結果的に肥料を与えずに栽培した方が農家の合計収入が多くなるため、農家では積極的に自然栽培を維持するように努力します。このように優れた茶師の存在は、地域の自然栽培維持に大きく貢献しております。また、彼ら加工業者が自然栽培茶を守り続けるためには、私達、仕入業者が自然栽培に価値を感じ、それなりの対価を支払うことが重要です。自然栽培茶の需要があってこそ、それを維持しようとしてくれます。更に、私達にとっては、自然栽培茶の美味しさを理解し、それに価値を感じてくれるお客さんの存在が有ってこそ商売が成り立つわけで、お客様が、自然栽培茶の美味しさに価値を感じてくれることは、間接的に、雲南省の自然栽培茶を守っている事に繋がっていると思います。

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