花の香りがする煎茶!月ヶ瀬萎凋煎茶の販売開始

[2018.12.17] Written By


奈良市月ヶ瀬の在来煎茶の一番茶から面白いお茶を作りました。煎茶なのですが、長時間の萎凋をすることで花の香りを高めました。非常に香り高く、仄かに文山包種茶のような華やかな香りも併せ持つワクワクするような煎茶です。香りを高めるため、半年間無酸素の状態で熟成させました。

煎茶の特徴を維持しつつ花の香りを高めたお茶を作ることの意義

自然栽培で作られたお茶は、慣行栽培(肥料をやって作る一般的な作り方のこと)のお茶と比べると、茶葉に含まれるアミノ酸が極端に少なく、代わりにポリフェノールやミネラルを多く含みます。この為、飲んだときに香りがスッキリとしており、味に厚みがあり、後味がしっかりと感じられます。ポリフェノールを多く含むと言うことは実は発酵茶に非常に向いております。お茶における発酵とはポリフェノールオキシデース(PPO)と呼ばれる酵素を媒介したポリフェノールの酸化反応です。ポリフェノールが多いお茶は、お茶が発酵した際により多くの香気物質が形成します。ただし、私は日本で烏龍茶を作ることに関してはあまり積極的ではありません。というのも烏龍茶は中国や台湾に非常に素晴らしい品質のお茶があり、価格的にも適正だと思っております。したがって、既に成熟した海外の烏龍茶の技術を日本で模倣するのではなく、微発酵技術を適所に取り入れることで、煎茶の特長を活かしつつ、花のような香りを高めたお茶を紹介したいと思いました。

萎凋により生じる花の香り

萎凋とはお茶の水分を徐々に蒸発させ、萎びさせることで、茶葉に含まれる酸化酵素を活性化し、微発酵を促す工程です。萎凋は萎凋層を使ってしっかりと萎凋する方法と、風通しのよい場所にて静置する方法があります。前者の方法だと、ダージリンティのように徹底的に萎凋をすることが出来、フルーツのような香りを引き出すことが可能です。ただ、萎凋が進むにつれ茶葉の縁が黄色やオレンジ色に変色し、フルーツ系の個性が強くなりすぎます。今回は「煎茶らしさ」と「花の香り」の両方を併せ持つお茶を目的としていたため、薄く広げた茶葉を風通しのよい森の中で約一日萎凋することで、爽やかな花の香りを強化しました。

HOJO専用に茶園を確保して頂いております

原料となるお茶は、窒素肥料や農薬を全く使用しない自然栽培方式(無農薬)にて栽培した原料を使用しております。月ヶ瀬の生産者にはHOJO用に私が希望する茶園産の原料を丸々確保して頂いており、月ヶ瀬の中でも私が理想とする原料を入手しております。月ヶ瀬周辺は地形的な理由から茶園一つ一つのサイズが小さく、通常の販売では複数の茶園がブレンドされるのが一般的です。ただ、単一茶園産ゆえの個性が尖ったお茶です。

琵琶湖の湖底に堆積した鉄分を豊富に含む土

月ヶ瀬をはじめとする宇治茶の生産地域は、数百万年前は琵琶湖の湖底でした。湖の湖底には鉄分を豊富に含む粘土質の土が堆積することから、これらの土壌はお茶に限らず良質の作物を育みます。ただし、実際に月ヶ瀬や周辺のエリアを歩き回ると、これらの良質な粘土質の土は山の頂上付近にのみ存在します。低い標高の地形は砂質の土壌を主としていることから河川による浸食で形成されたと推察できます。このため、私が仕入れている茶園も、山の頂上付近に位置しており、粘土質の土壌によって構成されております。

月ヶ瀬の茶園の風景(私が仕入れている茶園もこの近くです。)茶園の後ろに写っている低い山々の稜線が水平に一直線になっているのが分かりますのでしょうか?この部分に良質な赤土が堆積しております。

種から撒かれたお茶と挿し木のお茶の違い

在来種とは、本来日本古来の種を指す言葉です。しかしながら、お茶はそもそも大陸から伝播した植物であり、「在来種」と言う呼び名は厳密には適切ではないように思います。日本茶業界で在来種と言った場合、種から撒かれたお茶の事を指します。逆にヤブキタのような品種物のお茶は、その形質を保存するために挿し木で増やします。月ヶ瀬萎凋煎茶もいわゆる「在来」「在来種」と呼ばれる、種から撒かれたお茶(実生のお茶)を使用しております。種から撒かれたお茶と挿し木で作られたお茶ですが、両者には明確な差があります。種から撒かれたお茶の木は、ゴボウのように真っ直ぐ根を地中に伸ばすのに対し、挿し木のお茶は、木の樹齢に関係無く、細い根が、複数本横に広がります。この為、種から撒かれた実生のお茶は地中深くのミネラルをより吸いやすく、逆に、挿し木で作られたお茶は根が地表付近にあることから肥料を吸いやすい性質があります。後味や味の厚みを重要視する私にとっては、お茶に含まれるミネラルは非常に重要な要素ですゆえ、私は必ず種から撒かれた、実生のお茶(在来のお茶)を選択しております。

水色は非常に明るい黄緑色をしており、透明度が高いお茶です。

月ヶ瀬萎凋煎茶は仄かに文山包種茶の香と煎茶の爽やかな香りを併せ持つ

月ヶ瀬萎凋煎茶ですが、非常に爽やかで、蘭の花のような透き通るような香りします。また、私は仄かに採れたてのキュウリの香りのような香りも感じます。煎茶の香りと、台湾の文山包種茶のような香りの両方を併せ持ち、ワインのような程良い渋味を伴い、非常に飲みやすく美味しいお茶です。個人的にお茶を飲んだ後に、口の中に戻ってくる花の香りが非常に良いと感じております。

HOJOでは意識して茎を除去しておりません。茎にはカルシウムが豊富に含まれており、ふくよかさ(ボディ)を出す上で欠くことができません。烏龍茶、紅茶、プーアル茶、中国の緑茶等、どのお茶も茎が含まれております。

月ヶ瀬萎凋煎茶の淹れ方

ポリフェノールを豊富に含み、茶葉が微発酵していることを考慮すると、沸騰水で淹れて頂くのがベストです。茶器を沸騰水で10秒間予熱した後、お茶も沸騰水でいれてください。ただし、沸騰水を用いることから蒸らし時間は30秒程度が適切ですが、急須が大型の場合、濃いお茶が好みの場合、は長めに淹れてください。尚、私がいれる場合、2煎目以降は、茶葉に湯を通すだけで十分と感じております。

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