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蘭の花のような香りが特徴の月ヶ瀬浅揉み煎茶を発売
日本茶はなぜ針のような形状に揉む必要があるのでしょうか?この素朴な疑問を掘り下げ実験を繰り返すことで、揉みが浅い、非常に面白い日本茶を開発しました。非常にスッキリした味わい、煎が重ねられ、更に、花のような香りがするお茶です。
https://hojotea.com/item/g43.htm
煎を重ねにくい日本茶
他の種類のお茶と比べると日本茶は非常に強く揉まれ、また、撚られているため、お茶をいれた際に煎が重ねられません。味香りが一気に抽出され、3煎目以降になると香りも味が薄くなります。日本人からすると、「日本茶はそう言うもの」と思い、違和感すら抱きませんが、海外で中国茶、台湾茶をはじめいろんな種類のお茶を飲む人からすると、「日本茶は何煎も楽しむことが出来ない、つまり、煎を重ねることが出来ないお茶」と言われます。
茶葉を揉む・撚ることを揉捻と呼びます。日本茶は通常針のような細い形状へと揉捻されます。日本の市場では、茶葉の形状が非常に重要視される傾向があり、針のような美しいお茶が好評価を得ております。
形状はさておき、日本茶の揉捻は世界に何千とあるお茶の種類の中でも特に強く揉捻されております。揉みが強ければ強いほどお茶の細胞が磨砕されるために、お茶の出が早くなります。このため、日本茶は1〜2煎目くらいが抽出ピークです。もちろん、いれかたを工夫することで、ある程度の調節は可能ですが、他の種類のお茶と比べると日本茶はあまり煎を重ねることが出来ません。ただ、私も日本茶を強く揉む必要性については常々疑問を感じていたため、製法を変えることで、「何煎もいれられる日本茶が作れたら面白い」と思うようになりました。
揉まなくても出る味・香り
実際、海外には揉捻をほとんど行わないお茶も多数存在します。例えば、白茶は揉捻工程が全くありません。白茶の場合、萎凋→発酵止め→乾燥→低温にて火入れというのが一連の工程ですが、お茶を揉まないことが白茶の特徴でもあります。全く揉んでないにもかかわらず、白茶をいれると十分なレベルにて味も香りも出ます。茶葉が揉まれていないため、白茶は何煎も味香りが持続します。プーアル生茶についても、揉捻工程は他のお茶と比べると非常に軽めに行われます。時々、各種事情により、揉捻を意図的に強く行う場合がありますが、その様に製造されたプーアル茶は味香りの出が比較的速く、煎を重ねにくい特徴があります。
日本茶は旨味を出すために強く揉む?
紅茶の場合、揉むことで、細胞を破壊し、そこに含まれる酵素と基質を反応させ、酵素的な発酵を行います。したがって、揉むという作業には意味があります。揉み方の強弱で酵素反応の均質性にも影響があります。ただ、発酵を伴わない緑茶を強く揉むのは何故なのでしょう?
日本茶が強く揉まれるようになった理由の1つは、お茶に含まれる旨味成分(テアニンというアミノ酸化合物)が品質指標の1つとして注目されていることに関係するように思われます。実際、1940年代からお茶作りが現代農業化することで、ヤブキタを中心とする選抜種のお茶が、それまでの窒素肥料の10倍以上の施肥量と共に作られるようになりました。窒素肥料が多く施肥されるとその結果として、お茶が窒素化合物であるテアニンを多く含むようになりました。
詳しくは「年配の人が「昔飲んだ煎茶が美味しかった」という本当の理由」をご参照ください。
テアニンをより多く抽出し、より旨味を高める為には、細胞をしっかりと磨砕することでアミノ酸が溶出しやすくする必要があります。つまり、揉捻をしっかりと均質的に行う事で、お茶に含まれるアミノ酸を最大限に高めることが出来るのです。このようにお茶に含まれるアミノ酸の量が重要視されるようになった結果として、自然と茶葉が強く揉まれるようになったと推察します。
ただし、お茶の善し悪しを旨味成分量で評価するのは、日本のみです。紅茶、烏龍茶、白茶、プーアル茶等、世界でのお茶の評価基準は旨味ではなく余韻(コク)の深さ、ボディ(味香りの広がり・ふくよかさ)、香りの善し悪しを中心にお茶が評価されます。旨味は肥料を与えれば与えるほど増えるのに対し、肥料を使わない自然栽培茶には旨味成分は殆ど含まれず、その代わりに非常に長い余韻が感じられることから、海外における高級茶は基本無肥料か低肥料です。
軽く揉んだだけの日本茶を開発
私は全般に自然栽培茶を好んで仕入て販売しております。このお茶をプロディースするに当たっても自然栽培茶園産の実生のお茶を原料に選びました。HOJOのラインアップにある月ヶ瀬在来煎茶と同じ生産者ですが、異なる茶園で作られたお茶です。
自然栽培茶の場合、窒素肥料を極力使用しないために、現代農業方式で作られた一般的なお茶と比べると、アミノ酸含有量が少なく、逆にカテキンなどのポリフェノールを多く含みます。自然栽培茶は、また、ミネラルを多く含み、長い余韻を楽しむお茶です。アミノ酸がが少ないお茶であるため、強く揉捻する理由が見あたりません。自然栽培茶の特徴は透明感のある余韻の深い味と花のような香りです。この特長を活かし、同時に煎が重ねられるお茶にするためには、むしろ軽めの揉捻の方が理想的であると思われます。揉捻が軽めの方が、加工中に加えられる熱エネルギーも少なく、また、磨砕される細胞が少なくなるため、茶葉の表面積を小さめに維持することが出来ることから花のような爽やかな香りをより強調することが出来ます。
様々な揉み方のサンプルを実際の設備を通じて作成
一般的に日本茶の加工は以下の様な流れになっております。
- 蒸気による殺青(蒸青)
- 粗揉
- 揉捻
- 中揉
- 精揉
- 乾燥
上記の工程のうち、粗揉、揉捻、中揉、精揉はどれもお茶を揉み・捻る工程です。日本茶の生産工場を訪問すると、大型設備が並んでいるのに驚きますが、実は多くの工程が「揉捻」に関係する設備で占められております。これら4つある揉捻工程ですが、基本的には、蒸しただけのお茶を、徐々に揉んでゆき、最終的には針のような形状に仕上げる事を目的としております。また、蒸青直後のお茶の葉は蒸気により湿っており、大量の水分を含んでいるため、揉捻をしつつ、ほぐし、乾燥も行います。
蒸気による殺青直後、粗揉後、揉捻後、中揉後の4つのサンプルを抜き取り、それぞれを棚式の乾燥機で乾燥しました。
粗揉直後のサンプル
揉めば揉むほどに花の香りが減少するという事実
実際、花のような香りが一番強いのは蒸し工程直後の何も揉んでないお茶でした。流石に蒸し工程直後のお茶は、水分が高すぎ、また、茶葉同士が付着するために、その後の乾燥を行う際の効率が悪く、乾燥中に熱ダメージを受けすぎるため商品化は考えませんでした。
各種揉み工程のどの段階でお茶を抜き取るかと言う点ですが、揉み具合と茶葉の水分などを総合的に考慮しつつ判断しました。今年は揉捻工程途中からお茶を抜き取りました。
浅揉みにすることで蘭の花のような香りが形成
粗揉後、揉捻後のサンプルをいれてみたところ、従来の日本茶で体験したことがないようなフローラルな香りがし、透明感のある味わいが感じられました。ちょうど台湾の文山包種茶に香りと味わいが似ていると思いました。また、より揉捻工程を重ねるにつれ、日本茶特有の「炊きたてのご飯」のような独特の香りが形成されることが分かりました。つまり、お茶の場合、蒸し工程直後には花のような香りが香りがしているのですが、強く揉み、細胞を磨砕することで、酸化が進み、花の香りが日本茶独特の炊きたてご飯のような香りへと置き換わっている事が分かりました。見かけ上の温度は高くありませんが、それは水分の蒸発潜熱によって温度が下がっているからであり、実際には熱が加えられてます。この為、揉めば揉むほど、花のような爽やかな香りが減少します。ただし、実際に飲んで見ると、「花のような香り」は純粋に素晴らしく、この香りを最大限に引き上げることが私の使命であるとすら感じました。
低温でのベイキングをすることでより洗練された香りに
なお、揉みが少ないと、花の香りと同時に、青い香りも感じられます。いわゆる青臭さです。青さは必ずしもプラス要素ではないため自社でベイキング技術を駆使することで改善しました。清香型の烏龍茶のベイキングでの経験を活かし、自社のオーブンで火入れ加工をしました。台湾の文山包種茶や高山茶のベイキング、鳳凰単叢烏龍茶の清香タイプの製法を参考にパラメーターを設定しました。出来上がったお茶を最初に飲んだとき、「なぜもっと早く作らなかったんだろう?」と思うほど、香りと味のバランスが良く、私は個人的にとても気に入りました。今年以降、生産者と共に、生産パラメーターの見直しを行い、より花のような香りを引き上げたいと考えております。
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