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長時間萎凋で香り高いプーアル生茶を特注生産
- [2017.04.29] Written By 北城 彰(Akira Hojo)
どの生産者も「長い時間萎凋をしたら良い香りのプーアル茶が出来る」と言います。しかし、作業上の様々な問題により長時間萎凋のプーアル茶を作る人はこれまでおりませんでした。付き合いが長く、技術力にも信頼がおける生産者を説得した結果、私がずっと作ってみたかった長時間萎凋のプーアル生茶の生産を実現しました。
一般的なプーアル茶生産の流れ
プーアル茶の生産は一般的には以下の様な流れで行われます。
18-19時頃にお茶を生産者の元へと持ち込みお金と交換します。自分で製茶をする人は自宅へと持ち帰ります。その後、お茶は15cm位に盛られ、21-22時くらいまで萎凋が行われます。
その間、農家や生産者の人々は夕食をとっており、夕食をとった農家の人は製茶工場にて時間給で働いたり、自宅でお茶の釜炒り作業を行います。以下の様に農家の女性が釜炒りをするのはごく一般的な風景です。少数民族の村では、女性の方が働き者であるため、腕のよい釜炒り師の多くは意外に女性です。
釜炒り後のお茶は広げられ、冷却された後、揉捻が行われます。
揉捻後のお茶は、翌朝まで堆積され、翌朝早朝から、天日乾しが1日行われて完成です。
この中で意外と注目されているようでされていないのが、萎凋作業です。萎凋とは、湿度が低めで程良い通気がある室内に茶葉を広げることで、徐々に水分を蒸発させることで、お茶の酵素による緩慢な発酵を促す作業です。お茶の葉は、徐々に水分を失うことで、脱水ストレスから酵素発酵を開始し、それに伴い、花のような甘い香りを生じます。
良いと分かっていてもなかなか出来ない萎凋作業
烏龍茶、白茶、紅茶の生産同様に、プーアル茶の生産においても実は萎凋工程は非常に重要な意味を持ちます。萎凋をすることで、花のような華やかな香りを引き出すことが出来、とても飲み応えのあるお茶になります。意外にも多くの生産者は萎凋を長く行えば行うほど香りがよくなることを知っており、良いプーアル茶を作る上での萎凋の重要性を良く認識しております。但し、プーアル茶の製茶作業の流れは農家のライフスタイルにもとづいて成り立っている事から、萎凋を長くやろうとすると、真夜中までお茶を広げたまま待つか、翌朝まで萎凋をし続けるかの2択となります。通常プーアル茶生産の作業にはパートとして働く農家の人々の助力が欠かせません。彼らにとって日中はお茶摘み作業に全力を注がねばならない為、翌日の農作業(お茶摘み)に影響が出るような真夜中や翌日の日中に作業は基本出来ません。
人気の産地になると、生茶葉の取得は競争になります。業者は茶園まで出張買い取りに行くことで、良い茶葉を確保しようとします。彼らも、出来るだけ長く萎凋をした方がお茶が美味しくなることを熟知しており、道端の木陰にお茶を広げ即席の萎凋を行っている様子をよく見かけます。
生産者によってはお茶を午後に回収することで長めの萎凋を実現
私がお付き合いしている生産者の一人は萎凋を非常に重要視しており、比較的長めの萎凋を行っております。彼の方法はと言うと、高いお金を支払って、お茶を午後の時点で回収しております。なぜ、高いお金かというと、村から何キロも離れた茶園でお茶摘みをすることが一般的な雲南省の場合、農家の人々は一旦茶園に行ったら、一日中効率的にお茶摘みをしたいと思います。中途半端に午後に村に戻った場合、効率が悪いため、非常に嫌がります。彼らの日当は、その日に摘んだお茶の量 x 単価で決まるため、効率悪い行動を嫌がるのです。このため、午後に戻ってきて貰おうと思ったら、通常よりも高いお金を支払わないことには農家の人には相手にして貰えません。午後、例えば3時くらいに回収できれば、夜の9-10時まで6時間くらいしっかりと萎凋を行うことが出来ます。長めに萎凋をしたお茶は香りがよく、特に飲んだ後に香りが残ります。
茶園に行く為に数キロの道のりを歩くことも普通です。
萎凋によりより難しくなる殺青作業
萎凋をすると言うことは、水分が減るために、釜炒りによる殺青は非常に難しくなります。釜炒りは、釜の熱によりお茶が含む水分を蒸発させ、その蒸気を茶葉に充満させることで酵素を失活させます。詳しくは以下の記事をご覧ください。
茶葉は長時間萎凋をすればするほど、水分が少なくなることから、釜炒り作業はより難しくなります。お茶はより焦げやすくなり、通常よりも遙かに高度な釜炒り技術が求められます。萎凋をしたからと言って、釜炒りによる殺青作業を正確に行わなかった場合、お茶の茎などを中心に酵素が失活せずに残存します。酵素が残存した場合、天日乾燥中に発酵が進み、烏龍茶様の香りを形成します。ただ、この香りは萎凋+丁寧に殺青されたお茶のような透明感のある上品な花の香りとは異なり、雑味と僅かに青臭さを伴います。殺青が正確に出来てないお茶は、その後、経年保存することで酸化が過度に進み、発酵が行き過ぎた紅茶のような香り(テアルビジンという成分が寄与)を形成するため、理想的な香りを生み出しません。長時間の萎凋を行っても、殺青は極めて丁寧に行う必要があり、上手に殺青が行われたお茶は、萎凋の有無にかかわらず、理想的な熟成をします。
野放状態の無肥料の茶葉を使用しているため、茶葉が全体に黄色い色合いをしております。
結果に一番驚いたのは生産者でした!
私は以前から12〜16時間以上の長時間萎凋をすることで、香りのよいプーアル茶を作りたいと思っておりました。ただ、上記の問題があるため、一般のプーアル茶生産者は取り合ってくれません。そこで、ある程度自前の正社員を揃え、昼間でも作業が出来る生産者に翌日まで萎凋した原料によるプーアル茶の生産依頼をしました。最初は渋っていたため、「まずは、実験と言うことで数キロだけやりましょう」と説得し、実験を行いました。ところが、実験の結果が衝撃的すぎました。出来上がったお茶の香り、特に後に残る香りが明らかに普通のプーアル茶と異なり、お茶を飲んだ後に、台湾の烏龍茶のような香りが仄かに香ってきます。プーアル茶なのに、まるで、台湾の梨山茶を飲んだ後のような、甘い花の香りがじんわりと漂うのです。この結果に、一番感動し驚いたのは他でもない生産者でした。この新しい製法に今後のヒントをを見いだしたのか、試作品の茶を飲んで以来、生産者は長時間萎凋茶作りに夢中になってしまいました。
以下茶園に見えないかもしれませんが、黄色い葉をしているのがお茶の木です。このような茶園を野放茶園と呼びます。
野放茶園産の極上の原料を使用
折角の特別なお茶と言うこともあり、原料の選択もこだわり、非常に時間をかけて理想の茶園を探索しました。通常、生産者の工場を中心に半径5-10km内位の地域であれば、生産者を通じて農家に連絡を取ることが出来、市場価格よりも多少高めの値段を提示することで、理想とする茶園の茶葉を入手することが可能です。近年はこの方法で、自分の好きな茶園から生茶葉を仕入る事が出来るようになりました。茶園は臨滄鎮康県の火草山の標高2000-2100mに位置し、一年に一度しか茶摘みが行われません。農薬や肥料はもちろん、雑草も除去しないで自然のままに放置された自然栽培茶園、地元で言う野放茶園産のお茶です。高い標高と野放状態のおかげで、お茶の成長が非常に遅く、余韻が極めて長く、香りが濃厚で、口の中に甘い味わいが何時までも残るお茶です。
今回、非常によい状態にお茶が仕上がったため、餅茶にする前の「毛茶」を予約販売にて限定販売しようと計画しております。売れ残った分については、餅茶にする予定です。現在、選別作業を進めており、未だ数量が正確に出ておりませんので、暫くしたら、他のお茶と一緒に、予約販売のお知らせを出したいと思っております。名称は火草山古樹生茶の予定です。
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