お茶には焙煎という加工法があります。中国茶における焙煎は非常に奥が深いので、少し掘り下げて紹介したいと思います。

尚、焙煎は、中国のお茶業界では烘焙とか、炭焙などの言葉で呼ばれます。

香ばしさを引き出すだけではない焙煎技術

焙煎というと、焦げ目を付けたり、香ばしい香りを付けるというイメージがありますが、実はそれだけではありません。

中国茶や台湾茶における焙煎は複数の目的があり、焙煎で花の香りを引き出すこともあります。

日本茶でも中国茶でも、基本、製茶中のお茶を焙煎するのではなく、粗茶(中国語では毛茶)といって、一通りの製茶が終わり、乾燥も終わったお茶を焙煎します。

日本茶の焙煎

日本茶における焙煎は、煎茶などの「火入れ」と焙じ茶 が代表的です。
焙じ茶の場合200℃前後の高温で焙煎することで、成分を焦がすことで香ばしさを出してます。

煎茶の火入れの場合、目的に応じて条件が異なりますが、一般的には80-110℃の温度帯にて約20-30分間、熱処理が行われます。

火入れの目的は大きく分けると2つあります。

1.雑味の除去と香りの統一感を出す。

この場合、温度は100℃以下で行われ、熱処理を行うことで、雑味を低減し、粗茶特有の青い匂いなどを除去します。ちょうど、海苔を焙るのと原理は同じです。

この火入れ作業の場合、あくまで粗茶の個性を活かすことに主眼が置かれており、熱によって新たな香りを形成することを目的としておりません。

尚、火入れには色んな方法がありますが、具体的な方法については割愛します。

2.お茶に含まれるアミノ酸と糖の反応を促し、カンロ飴やホットケーキのような香りを引き出す。

アミノ酸を豊富に含む慣行栽培のお茶の場合、100℃以上の熱で処理すると、茶葉に含まれる糖とアミノ酸が酸化反応を起こします。これをメイラード反応と呼びます。

メイラード反応を香り形成に生かされている代表的な食品は、ホットケーキ、カンロ飴、みたらし団子のタレなどがあります。一部の煎茶にある、カンロ飴のような甘い香りは、熱処理によって引き起こされるメイラード反応が関係しております。

尚、自然栽培茶の場合、アミノ酸含有量が非常に少なく、代わりにポリフェノールを多く含みます。この為、同じ条件(100℃以上の温度で焙煎)しても、上記の様な香りはあまり形成されません。

烏龍茶の焙煎

烏龍茶の場合、日本茶の火入れと大きく異なる点は、極めて長い時間をかけて焙煎を行う点です。

数十分程度で完了する日本茶に対して、烏龍茶の場合、6時間前〜10時間焙煎することも珍しくなく、また、お茶によっては1セット6〜10時間の焙煎を、数ラウンド行う場合もあります。烏龍茶の焙煎は、例えるなら、「お菓子を焼き上げる」ようなイメージです。

HOJOのお茶の場合、生産者が焙煎をする場合と、私が自分で焙煎をする場合があります。烏龍茶の焙煎には温度設定や焙煎時間など非常に複雑なノウハウがあり、非常に面白い分野です。

尚、詳細な温度条件、処理時間などは社外秘になりますので、概念だけ説明させていただきます。

以下、烏龍茶の焙煎における、3つの異なる目的を説明したいと思います。

1.雑味の除去と香りの透明感を出すとともに、花やフルーツの香りを引き出す

凍頂烏龍、阿里山茶、梨山茶のような一般的な台湾の清香型烏龍茶、鳳凰単叢烏龍茶の清香型など、非常に華やかな花やフルーツの香りがするお茶は、全く焙煎が行われてないと思われがちですが、実はこれらのお茶も焙煎されております。


このような外観の清香タイプの台湾の烏龍茶も実は低温焙煎が行われております。

 

作りたての烏龍茶(毛茶)は、色んな意味で品質が安定せず、バラツキがあり、また、香りも青っぽさが感じられ、セロリ系や草のような香りがしたりします。

花やフルーツのような華やかな香りの鳳凰単叢烏龍茶ですら、毛茶は香りのノイズが多く、セロリっぽい香りが感じられます。

毛茶を低温で長時間焙煎することで、雑味を除去すると同時に、味の透明感を高め、更に、花やフルーツの香りを劇的に高めます。生産者によっては、この作業は焙煎と呼ばず、烘乾(乾燥)と呼ぶ場合があります。

2. 中温で長時間焙煎をすることで、乾燥フルーツのような熟成香を形成

この作業は正しく焼き菓子を焼き上げるのと同じ概念です。
お茶に含まれるポリフェノールを長時間かけてじっくりと化学変化させることで、乾燥フルーツのような甘い香気成分を引き出します。

焦がすことが目的ではなく、熱によって熟成を促進することが目的です。

HOJOのラインアップですと、濃香タイプの鳳凰単叢烏龍茶、凍頂烏龍炭焙、凍頂金萱烏龍、木柵鉄観音などが良い例です。

この方法は中温域で長時間焙煎するため、お茶の成分が安定化し、袋を開封してもお茶が劣化しにくくなります。

3. 香ばしい香りの付与

高い温度域で焙煎することで、香ばしい香りを付与する焙煎方法です。
1や2の方法と組み合わせることが多く、2回目の焙煎の際に、高温焙煎することが多いようです。

台湾茶で多く見るのは、清香タイプの烏龍茶の表面だけ強く焙煎することで、花のような香りと香ばしさを両立させる製造法です。ただ、このタイプのお茶は、成分が熟成するまでしっかりと焙煎されてないため、開封後、酸化劣化が早い点が特徴です。

安渓の烏龍茶によくあるのは、2の方法でしっかりと乾燥フルーツ系の香りを引き出した後、最後の仕上げに高温で焙煎し、香ばしさを高める手法です。

武夷岩茶の焙煎

武夷岩茶の焙煎は、上記の2の方法で何度も焙煎するのが本来あるべき形です。
数ヶ月のインターバルを空け、中温域での焙煎を何度も繰り返すことで、ブランデーのような濃厚な乾燥フルーツ香を高めたお茶こそが、究極の武夷岩茶のスタイルです。

しかしながら、近年の過熱する人気ゆえに、岩茶の需要が非常に高まり、適当に作っても売れてしまうため、生産者の焙煎技術が簡略化されつつあるのが実情です。

市場に流通している岩茶の多くは、高温で焙煎が行われており、焦げた香ばしい香りが武夷岩茶の特徴と勘違いしている人も多くおります。

しかし、本来良いお茶は、焦がすべきではありません。焦がしてしまったら、お茶の成分は過度に酸化し、折角のお茶の個性は消えてしまうためです。

紅茶の焙煎

焙煎する紅茶の代表格は、正山小種(ラプサンスーチョン)です。
正山小種というと、煙臭い、薫香のするタイプが頭に浮かぶと思いますが、ここで言う焙煎は薫香とは別です。

例えば、HOJOで販売している、正山小種 奇種、正山小種 花香、妃子笑、桐木水仙、正山小種 小赤甘などのお茶を是非試してみてください。
https://hojotea.com/item/b02.htm

これらの紅茶は、各種工程を経て完成した紅茶(毛茶)を、更に、炭火で数時間以上焙煎することで、フルーツ香と乾燥フルーツ香を高め、何とも言えないトロピカルフルーツ系の香りを引き出しております。

この圧倒的なフルーツ香を体験すると、正山小種がアールグレイの元となったという話を納得せざるを得ません。

炭焙は高度な制御を必要とする贅沢な焙煎方法

日本で炭火というと、「焦げ臭」や「香ばしさ」を連想しがちですが、中国や台湾における炭焙は、お茶を焦がすのでは無く、じっくりと熱だけを伝える技術です。

炭火と言っても、焼き鳥屋や鰻屋のような露出した炭火を使うわけではありません。焙煎に使う炭火は、日本の「掘りごたつ」と同じで、炭火を灰で完全に覆うことで、炭火の表面をお茶の粉が落ちても、一切煙が出ないように加工します。

この手法ゆえに、上手に炭焙された烏龍茶は、花やフルーツの香りを呈し、焦げ臭は全く感じられません。

上の写真の様に炭火を灰で覆い、下の写真の様に全く火が見えない状態にした上で、炭焙を行います。

焙煎直後では焙煎の本領は発揮されない

尚、焙煎の特徴として、焙煎直後の香りは抑えめで、華やかな香りを呈しません。
3の焙煎をしたお茶などは、焦げた香りだけが悪目立ちし、フルーツや花の香りが隠れがちです。

しかし、お茶を1〜3月保存(無酸素が理想)すると、お茶が程良く熟成し、花やフルーツの華やかな香りが形成されます。

焙煎直後のお茶を試飲しても、近将来発揮されるであろう本来の味香りが分からないため、焙煎度合いが適切かどうか判断することが難しく、焙煎条件を理解するには経験を要します。

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