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年配の人が「昔飲んだ煎茶が美味しかった」という本当の理由
- [2013.02.23] Written By 北城 彰(Akira Hojo)
年配のお客さんと話をしていると、「むかし飲んだ日本茶が忘れられない」と言う話になることがあります。
1950年以降、10倍以上に増えた窒素肥料の使用量
実は1950年以前のお茶は今とは全く異なる方法で栽培されておりました。日本のお茶は高度経済成長と共に大きく変化しました。高度経済成長期はお茶に限らず、野菜や果物の需要が急激に伸び、増産をする為の手段として農薬や肥料を使った、いわゆる現代農業が急速に普及しました。
以下の資料を見ると1950年を境に生産方法が変化していることが分かります。この資料は農林水産省で発行している資料です。
http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/nenyu_koutou/n_kento/pdf/3siryo4.pdf
特に見て頂きたいのが6番の「茶園地における窒素過剰施肥の影響と対策」という内容です。
ポイントを抜粋すると
- 明治から昭和の初期にかけて肥料は年間10kg/10aだった。(1aは10m x 10m)
- 茶のうまみを追求するあまり1940年代後半いこう肥料の施肥量が急速に増加を始め、1950年代には120kg/10aに達した。つまり、昭和初期の12倍の使用量。
- 窒素施肥が茶園面積の1/6にあたるうね間に集中して長年投入され、土壌劣化と水質汚染 をもたらしている。
窒素肥料を使うようになったことで蓄積されるアミノ酸
高度経済成長期には国内の需要が急激に増加し、お茶の生産量を増やすために国策として窒素肥料が大量に使われるようになりました。
そうなると当然お茶の品質も激変します。低肥料で作られたお茶特有のコクのある後味と透き通るような香りから、あっさり味、アミノ酸特有の香り、まったり感のあるお茶へと変化しました。
お茶に含まれるテアニンが京都の酒戸氏によって発見されたのは1950年のことですので、アミノ酸含量が意識されるようになったのは、1950年代以降のことです。
それまではテアニンという物質は誰も知らなかったわけです。なお、アミノ酸の味は旨味と呼ばれますが、旨味=美味しさではありません。グルタミン酸ナトリウムに代表されるアミノ酸特有の味自体を旨味と呼びます。
窒素肥料を使って栽培されたお茶
1950年以降に劇的に変化した日本茶の標準
私はお茶業界は1950年以降、以下の変化をしたと見ております。
- 窒素肥料を大量消費してお茶を栽培するのが普通になった1950年代以降お茶の品質は確実に変化した。
- 窒素肥料が激増したため茶葉にはテアニンが大量蓄積されるようになった。
- 1950年以降、テアニンが日本茶の高品質の証と言われるようになった。
- アミノ酸は火を入れると特有の香りが出ることから、お茶に強く火をいれるようになった。
- アミノ酸が出やすいように極端に低い温度でいれることを推奨するようになり、今ではデファクトスタンダードとなった。
お茶が好きな人にはコクのある味と深い香りがするお茶が好まれる
当然、1950年以前のお茶を好んでいた人には、現在のアミノ酸リッチなお茶では満足できません。
窒素肥料を大量施肥して作られたアミノ酸リッチな煎茶は1つの個性だとおもいます。ただしそれが品質の規準というのはどうも納得できません。
海外では高級茶栽培に窒素肥料は使われない
インド、中国、台湾で超高品質のお茶を作る農家や生産会社は決して窒素肥料を入れません。
一方、低品質〜中くらいの品質を生産する場合、日本と同じく大量の窒素肥料が用いられます。
龍井茶、君山銀針、鳳凰単叢烏龍、鉄観音、梨山茶等、高品質のお茶になると窒素肥料を与えずに栽培され、輸出用のような低いグレードは肥料が大量に用いられます。
ようするに高級なお茶は窒素肥料で成長を加速するのではなく、自然に近い状態でゆっくりと栽培することが重要視されております。
むかし飲んだお茶が忘れられないという人には、自然栽培で作られた煎茶、宇治煎茶 鷲峰山、春日在来煎茶、月ヶ瀬在来煎茶などをお勧めすると大変喜んで頂けます。ただし、これらのお茶はアミノ酸がほとんど入っていないため、高温(90-95℃)にて短時間(数秒〜10秒以内)で淹れる事が重要です。
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