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プロでも分かり難い鉄観音の値段の謎
- [2017.08.19] Written By 北城 彰(Akira Hojo)
お茶のプロでも分かり難い安渓鉄観音の値段を決める要素について、私の仕入経験に基づき説明したいと思います。
鉄観音は日本でも中国でも人気のお茶
安渓鉄観音は日本でも容易に入手出来る烏龍茶の1つであり、その知名度の高さゆえに、中国でも高い人気のお茶です。しかしながら、安渓鉄観音の値段の仕組みには謎が多く、産地である安渓でも100gが数万円以上するようなお茶が普通に売られております。また、意外に安渓のお茶市場で買うと品質の割に安かったりすることもあり、謎が多いお茶です。そこで、私の経験と調査に基づき、鉄観音の値段がどのような要素によって決まるのか、品質の定義を説明したいと思います。
原料品質と加工品質を理解する
まず、鉄観音の値段には「原料品質」「加工品質」の2つの要素が値段に影響していることを理解する必要があります。原料品質とは文字通り素材である茶葉の品質。加工品質とは、発酵、焙煎の技術力を指します。鉄観音の基礎となる価格は原料の客観的な質で決まるのですが、加工品質の優劣が最終的な鉄観音の値段を劇的に押し上げることがあります。これは烏龍茶特有の文化で、緑茶、プーアル茶、白茶や紅茶の場合、どちらかというと原料の質、お茶摘みのコストで商品の値段が決まり、加工の出来不出来は値段にあまり影響しません。
鉄観音は鉄観音という名の品種から作られる
鉄観音はその名前の如く、鉄観音種という品質から作られている事が前提です。鉄観種のお茶は、ミネラルの吸収能力が高く、全く同じ条件で栽培しても、他の品種のお茶よりも余韻が長く、後味の濃いお茶になります。また、蘭の花のような香りも鉄観音種の特徴です。ただし、市場には多くの鉄観音種以外の品種から作られた烏龍茶も鉄観音の名を冠して流通しております。安渓におけるその他多くの品種から作られお茶は、成長が早く収穫量が多いために、原価を抑えることが出来るためです。他品種から作られた「鉄観音」もそれなりに近い香りがしますが、鉄観音種特有の蘭の花の香りが弱く余韻が浅い点が特徴です。
標高は安渓のお茶の品質を語る上で非常に大事な要素
安渓鉄観音の品質を決める重要な要素は標高です。安渓では標高数百メートルから1500メートル付近まで茶園が広がっており、標高が高いほどに茶葉の質が上がります。高い標高で作られたお茶は、余韻が非常に長く、また、味に透明感があり、口当たりが柔らかく、非常に強い香りが感じられます。同じ生産者が複数の標高のお茶を有していた場合、自然と標高の高い茶園のお茶は品質が高く、高い値段がつきます。
肥料が多いと成長が早いが味が薄くなる
同じ条件で作られた場合、肥料の多少もお茶の品質に影響を与えます。沢山の窒素肥料を与えると、お茶の成長が早まり、その結果、味が薄く、余韻の浅いお茶になります。
春摘みと秋摘み
鉄観音の場合、春に摘まれるだけでなく、初夏や夏、秋にも摘まれます。基本的に春のお茶が最も質が良く、次に秋、夏のお茶は汎用茶として安価な値段で取引されます。秋のお茶は香りが強い為、それを絶賛する人もいます。ただ、口当たりの柔らか、後味の強さに関しては春茶が突出しております。
御茶市場のお茶が安いのには訳がある
安渓の中心部には大きなお茶市場があり、そこにはお茶農家も直接自分が作ったお茶を売りに来ております。中には値段の割に質が良いお茶もあり、中国のお茶会社の中にはここで専門的に仕入を行っている会社もあります。ただし、市場で購入する鉄観音は基本農薬の管理は行われておりません。日本の農薬基準に合致したお茶を市場で入手するには論理的に無理があります。お茶市場のまわりには多くのお茶会社が事務所を構え、日々安価な鉄観音の仕入を行っております。
焙煎技術が原料コスト以上に売値に反映されることも
近年、安渓における猛烈に高い鉄観音の多くは、焙煎を行ったタイプのお茶がその中心をしめます。一昔前は、清香タイプで非常に緑色をしたお茶が流行ったことがありました。当時は、より緑色を引き立たせるために、発酵によって褐色化した茶葉の縁を除去するなど非常に手間暇がかけられており、清香型のお茶が非常に高い値段で売られていたことがありました。その後、市場のトレンドが変化し、近年では、火が中くらいに入った中焙くらいのお茶が人気を集めております。蘭の花の香りを維持しつつ、フルーツのような甘い香りを伴う、バランスの良い香りを引き出すためには、高い標高、低肥料で作られた優れた原料に加え、高い焙煎の技術が求められます。焙煎が上手に行われ、理想とする香りが引き出せた場合、安渓の生産者は、非常に高い値段を付けることがあります。例えそれが原料の数倍の値段であっても、その様なお茶の需要は高く、市場ではそれなりに受け入れられております。このような焙煎による付加価値を商品価格に反映させるやりかたは、台湾の烏龍茶業界においても類似の傾向が見られます。台湾の烏龍茶に関しても、焙煎技術により、原料の質の割に高い値段が付けられたお茶を良く目にします。
私は仕入における品質と価格の透明性を重視するため、基本焙煎前のお茶を仕入れ、それを特注により希望する香りへと仕上げて貰ってます。最も重要視するのは、余韻の深さ(後味)と味香りの透明感です。好条件で栽培されたお茶は、後味が濃く、清香が美味しいのはもちろん、焙煎をして仕上げても非常に良い香りへと仕上がります。
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