当店にお越しいただき、ありがとうございます。HOJO代表の北城彰です。中国茶販売から紅茶まで、お茶のことならお任せください。
▼ 北城のプロフィール
こちらのリンクをクリック>>▼ 北城のブログ
新着情報や読者限定お買い得情報も発信。
●バックナンバーはこちら >>ホーム>茶器の取り扱い
1.茶器を購入したけど、使い始めに特別な処理をする必要はあるのか?
2.茶器はお茶毎に分けた方が良いのか?
3.異なる種類の茶器を組み合わせても大丈夫か?
上記3点は茶器を購入されるお客様にとって非常に気になる点ではないかと思います。
本ページで、これら3点について詳しく解説したいと思います。
まず最初に重要な考え方を説明いたします。
茶器の処理や相性ですが、実は茶葉や水に含まれるミネラルが深く関係しております。
1つの急須を使い回すと香りが移ってしまうのでは?と心配されるお客様がおられますが、そう言う問題ではありません。
香りは有機化合物です。
有機化合物は必ず酸化してしまうため、「香り」として付着し続けることはありません。通常酸化により、分解か重合し、揮発するかタンニンのような茶色の色素となって付着しているだけです。
また、有機化合物ゆえに、ミネラル(無機化合物)の茶器には強く付着しません。むしろ、大切なのは、相性のあったミネラルを味方に付け、相性の合わないミネラルは避けると言う点です。
茶器を処理する方法ですが、人それぞれです。
茶葉と一緒に煮る、茶を入れて一晩静置する、湯で煮る、生姜で煮る等の一般的な方法から、中には豚骨と一緒に煮るというお客様までおります。(笑)
茶ををなぜ処理する必要があるのか、その辺を詳しく説明したいと思います。
土によっては非常に強い臭いを発する茶器があります。特に、低温で焼かれた宜興製の紫泥(紫砂全般ではなく紫泥)には臭いの強い茶器がよく見られます。
中にはまるで靴墨のような強い臭いを発する茶器もあり、そのままお茶を淹れた場合、お茶にも香りが移ってしまいます。
この問題を解消するために、茶葉で煮たり、茶葉を漬け込み、茶葉に含まれるポリフェノールで香りをマスキングしようと言うわけです。
但し、現実問題、僅かな香りであれば、茶葉によって香りが感じられなくなりますが、強い香りがする土の場合、前処理をしたとしても、暫く茶器を使わずに放置しておくと、表面に付着していた茶葉由来のポリフェノールが酸化してしまい、再び、土の臭いが立ちます。私はあまり臭いの強い茶器は健康に不安を感じるため、自分では選ばないようにしております。
一般的な陶器の場合、お茶の味を美味しくする主体は鉄イオンです。
表面積が大きくて鉄イオンが多く含まれていれば味が良くなると考えられがちですが、決してそうではありません。
鉄イオンの放出量(含有量・表面積が関係)と同じく重要なのが、他のミネラルの含有量です。
鉄と協力して味を更に良くするミネラルと、鉄と反発して味を悪くしてしまうミネラルとがあります。
例えば、亜鉛、アルミ等は味を劇的に悪くします。簡単な実験で、朱泥の急須で入れたお茶に、1円玉や5円玉をチョンと触れると、味は劇的に悪くなります。
朱泥という土が優れているのは鉄の純度が高いゆえですが、多くの茶器はその様な優れた土で作られているとは限りません。
鉄以外のミネラル、特に亜鉛を含む急須に水を通した場合、水ですら舌にざらつき感が感じられます。一種の渋味で、知らずに飲んでいると、まるでお茶が渋いかのように感じられます。特に渋味が頻繁に感じられるのは、宜興製の紫砂の中でも、紫泥の茶壺に多いようです。
このような茶器ですが、渋味の程度があまりに強い場合は、手の施しようがありませんが、僅かな渋味であれば、継続的な使用により渋味が軽減されます。
これは、水や茶葉から放出されたミネラルが急須の土表面に付着し、ザラザラ感の原因となるミネラルを覆ってくれます。
私は1ヶ月間、茶器に水だけを通し続ける実験を行いました。その結果、1ヶ月後には水の味も舌のざらつき感も、目に見えて改善されました。通常、茶器を暫く使うと味が良くなるのは、水由来のミネラルに起因するところが大きいようです。
結論として、使い始めには特にこれと言った処理をする必要はありませんが、ザラザラ感や香りが気になる方は、緑茶や烏龍茶を急須に入れて湯を注ぎ、一晩、放置してください.。これを数回繰り返すことで、土がかなり馴染みます。
茶葉を入れて煮るという方法もありますが、急須を傷める可能性もあるため、あまりお薦めではありません。
中国では「養壺」と言う言葉があり、茶壺に湯やお茶を頻繁にかけます。これは、おそらく、味を改善する目的で、先人達は暇さえあればいらなくなった湯やお茶を茶壺に通していたのだと思いますが、その本質が忘れられ、今では中ではなく外側にかけられるようになったのではないかと思います。養壺でも、中にお茶を浸けておくという方法もあり、こちらの方がより目的に即していると思われます。
野坂のように、天然朱泥の急須の場合、吸水性が非常に高い為、茶葉を淹れて煮た場合、急須表面にお茶の成分が染みこみ、色が早く変化します。最初は柿色をしている本急須ですが、より赤い色へと変化します。この変化を加速したい場合、煮るのも一案です。
また、萬古紫泥急須のように、還元焼きの茶器の場合、手で触ると指の指紋が土に入り込み、拭いても洗ってもとれなくなります。このような茶器は、土表面をお茶の成分でコーティングすることで均質な見た目を維持することが出来ます。土表面にお茶の成分を染みこませるための試みが必要です。
ただ、やはり私は茶器の保護のため、煮るのではなく、お茶を急須表面に塗ったり、かけたりする方法をとります。
なぜ茶器をお茶毎に分ける必要があるかという問題ですが、その答えとして「香りがうつるから」と回答される人が多くおります。 実際、香りは全く関係有りません。
香りの成分である有機化合物は、例え茶器に付着したとしても、直ぐに酸化し、揮発してしまったり、褐色に変化し無臭となります。
これはお茶を放置しておけば香りが無くなるのと同じような原理です。
また、淹れ終わった後に、熱湯ですすぎ、淹れる前にも熱湯ですすぐと言う点さえ守っていれば、香りが残存することはありません。
私自身自分の店ではこの方法をとっておりますが、全く問題を感じたことがありません。
では、なぜお茶毎に茶器を分けた方が良いと考えられているのでしょうか?
茶器はミネラル、つまり無機化合物で構成されておりますが、ミネラルが含まれるのは茶器だけではありません。
水にも、茶葉にも含まれます。勿論、全ての素材に含まれるミネラルの種類は同じではありません。
この為、組み合わせにより、味を美味しくする場合と、逆に不味くする場合があります。特に鉄以外のミネラルが多く含まれている茶器(宜興紫砂の場合、紫泥、段泥、緑泥、紅泥)になればなるほど、お茶との相性がシビアになります。
逆に朱泥のように鉄の純度の高い土の場合、どのようなお茶と組み合わせても良い相性を示します。これが純度の高い朱泥の凄さでもあります。
茶器を使う上で最も重要なことは、茶葉よりもむしろ、水です。
常に同じ水を使ってお茶を淹れ続けることが重要です。茶器の洗浄も、暖めるのに使う水も全て同じにしてください。
水は種類により異なるミネラルを含みます。例えば、
水A aとbとcのミネラルを含んでいるとします。
水B bとeとfのミネラルを含んでいるとします。
特定の水を使い続けた場合、水由来のミネラルは素材の表面に蓄積します。
これはいわゆる水垢です。英語ではスケールと言います。ドイツ語でカルシウムのことをカルクと呼ぶことから日本ではカルキと呼ぶようになりました。
但し、このスケールはカルシウム単体ではなく、様々なミネラルの複合体だとご理解ください。
Aの水のみを長年使い続けた場合、茶器にはabcのミネラルが蓄積します。ところが、ある日突然、使用する水をBに変えた場合どうなるのでしょう?
水Bにはaとcのミネラルが含まれておりませんが、茶器表面には水A由来のミネラルaとcがスケールとして大量に含まれます。
スケールはaとcを大量放出します。その結果、新たに加えられたBの水はbとaとcを多く含む水となり、本来のAの味でもBの味でもなくなります。
味がおかしくなり、あわててAの水に戻しても元の味には戻りません。既に、スケールはaとcのミネラルを一部失っているために、今度はAの水からaとcのミネラルを沢山奪おうとします。これを科学では緩衝作用と呼びます。
このように一旦ミネラルバランスを崩してしまった場合、数ヶ月間は従来の味が得られなくなってしまいます。
上記理由ゆえに、茶器を特定の水と固定するのは特定の茶葉に固定する以上に重要な問題です。これはやかんに関しても同じです。勿論、カルキ抜きをするのは論外です。折角美味しくなった水の味が台無しとなります。
同じ水で湯を沸かし続けた場合、或いは、お茶を淹れ続けた場合、例え茶葉が同じでなくても味は向上します。
以下注意点を列挙します。
1.中古の茶器を購入した場合、前所有者の水由来のミネラルが多量に付着しているため、数ヶ月間は「本来の味」が得られません。お茶を飲まないときも湯を通し続けることをお薦めします。
2.ヤカンも南部鉄器も水は決して変えないようにしてください。
3.友人の家で自分の茶器を利用してお茶を淹れる場合、自分の水と自分のヤカンを持参することをお薦めします。
4.転勤などで水質が変わった場合、毎日湯を通し、新しいミネラルに茶器が早く馴染むように努めてください。
5.ヤカンも含め、カルキ洗浄は厳禁です。
茶葉からもミネラルが放出されますので、水の場合と同じような考え方をすることが出来ます。
良いお茶には鉄分が多く含まれます。このようなお茶を淹れ続けた場合、お茶の鉄分が茶器にも蓄積し、経年使用の後には水を通しただけで高級茶並みの味を感じられるようになります。
人によっては長年高級茶を淹れ続けた茶器からは湯を通しただけで高級茶の香りがすると言いますが、それは迷信です。前述したとおり、香りは有機化合物ですので直ぐに酸化してしまいます。
逆に相性が悪い組み合わせにて、お茶を淹れ続けた場合、例えば、HOJOのラインアップでは、信楽土+鳳凰烏龍、舘正規萬古紫泥+武夷岩茶などを淹れ続けると、土の表面が相性の悪いミネラルでコーティングされ、性能がおかしくなります。
この為、必ず茶器と相性のよりお茶を淹れ続け、相性の合わないお茶は避けることです。
一般に、非常に個性的で他のお茶とは異なる種類のミネラルを含んでいるお茶は以下の通りです。
1.鳳凰単叢烏龍・武夷岩茶:両烏龍共に水仙種なので同じ茶器を使用しても問題ありません。
2.安渓鉄観音
3.プーアル熟茶
これらのお茶を継続的に飲まれる場合は、専用の茶器を準備されるのが理想です。頻繁にお茶をローテンションされる場合、特に気にされることはないでしょう。
プーアル熟茶の場合、茶葉に含まれるミネラル自体は特殊ではありませんが、発酵にカビが使用されているために、発酵時に生じる有機酸によりお茶のpHがやや酸性という特徴があります。
pHが異なるお茶は茶器を分けた方が無難です。
以上、まとめると、以下の通りです。
1.理想論を言えば、一つのお茶に対し、一つの茶器ですが、現実的には相性さえ合えば使い回してもマイナスには作用しない。
2.相性の合わないお茶を淹れつづけると茶器が駄目になる。
3.使用する水は、洗浄水も含め同じ物を使用すること。水を変える場合、頻繁に湯を通し早く馴染むように努める。
4.鳳凰単叢・武夷岩茶、安渓鉄観音、プーアル熟茶を特に重点的に飲む場合は専用茶器が理想。
5.他人が長年使用した茶器は、他の水を使用しているため、優位性は全くない。むしろ、初期化に数ヶ月を要する。
日本茶のデモンストレーションビデオなどを見ると、異なる種類の冷ましや急須を組み合わせ、使用しているシーンを良く目にします。
見た目的には美しいですが、上記の様な組み合わせは折角の味を台無しにする可能性が高い事をご存じでしょうか?
異なる茶器には異なる種類のミネラルが含まれております。この為、組み合わせて使用した場合、更に味が良くなるか、味が全くフラットになるかのどちらかです。
残念ながら、結果は実験してみないと分かりません。
日本の茶器には酸化焼成で焼かれた茶器と、還元焼成で焼かれた茶器があります。
酸化の場合、鉄分は酸化鉄、還元の場合、還元鉄へと変化します。
まず、還元で焼いた茶器と酸化で焼いた茶器を組み合わせるのは基本的に避けるべきです。但し、中には例外もあります。
酸化と還元焼成の茶器を組み合わせた場合、異なる種類の鉄イオン同士が影響し合うためか、水の味はフラットになります。
例えば、佐渡野坂(天然朱泥)の急須でお茶を淹れ、萬古の湯飲みでお茶を飲んだ場合、美味しくありません。
更に、相性の合わない茶器同士を長い間組み合わせ続けると、ミネラルが蓄積するために、茶器そのものの性能がおかしくなることもあります。
焼成方法が同じであれば絶対に大丈夫かというと、そうでもありません。鉄以外のミネラルを多く含む茶器の場合、味や香りの相殺が起きることがありますので注意が必要です。
ただ、逆に相乗効果が出る場合は大変魅力的な結果となります。例えば、佐渡無名異還元焼の急須で淹れたお茶を萬古の湯飲みで飲んだ場合、香りは弱くなる物の、極めて太いコクのお茶になります。
釉薬が付いている茶器でも、同様の問題がありますのでご注意ください。最近は発色を美しくするため、酸化焼成することで青や緑に発色するようにコバルト、クロム、銅、亜鉛などのミネラルが釉薬に含まれます。
これらの金属は味をフラットにしたり、更に、舌のざらつき感を増す原因となります。(灰柚や純粋に鉄だけを使った天目などは味を良くする場合もあります。)
陶器の茶器と組み合わせて相互作用が殆ど無い材質は、ガラス、白磁、ボーンチャイナです。
このように異なる種類の茶器を組み合わせる場合は、それぞれの性質を理解し、結果を把握した上で購入する事が大切です。或いは、同じ種類の茶器で全てを揃えてしまうのが無難かと思います。
HOJOでは、自社プロディースの茶器間で有れば、茶器を組み合わせたときの味や香りへの影響に関する知見がありますので、説明する事が出来ます。興味がお有りの場合、メールにてお問い合わせください。
同様の問題は南部鉄器にも存在します。南部鉄器を使っているからお茶の味が美味しいと思われがちですが、誤った組み合わせで使用するくらいなら、南部鉄器を使わない方が遙かに美味しい味になります。 南部鉄器は鉄ですが、鋳込みが終わった後に釜焼き工程という工程があります。
釜焼きとは、鉄瓶を炭火で焼くことで、「酸化皮膜」を付ける工程として知られております。
但し、使用する炭の種類により、焼き上がった鉄は還元気味になったり、逆に中性〜酸化気味になったりします。つまり、実際は還元皮膜の鉄瓶も多くあります。
鉄瓶単体で水を沸かした場合においては全く問題がないのですが、茶器と組み合わせると大変ややこしいことになります。ヤカンで沸かした水をガラスの急須で淹れた方が美味しかったと言うことは良く聞く話です。
鉄瓶と陶器を組み合わせた場合、美味しくなるか、逆に不味くなるかは五分五分です。鉄瓶や急須の作家は工芸のプロでありお茶のプロではないため、作家に相談しても味に関する知見は得られません。。
私が取り扱っている、鉄瓶でも、薫山工房や清光堂のように還元が強い鉄瓶は、還元焼成の茶器との相性が良く、逆に鈴木盛久は酸化焼成の茶器との相性が良いようです。
実際、野坂のような高性能の茶器を使用される場合、普通のヤカンで沸かした水を用いられるのが無難です。野坂のような土のは性能が極めて高く、鉄瓶とは円やかになるレベルが異なります。
鉄瓶と茶器を組み合わせれば、更に高い効果は得られるでしょうが、ハイリスクハイリターンであることを理解しておくことが必要です。